掲示版: 話題「正義の見方」 (イリューダ)
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| 正義の見方 | ||
| イリューダ | 2002年02月19日23時40分更新 | |
| えー、これは他人のコメントに対する批判とも取られてしまう可能性もあり、ちょっと迷ったのですが、映画に接する基本的なスタンスの問題が問われているような気がするので、あえて発言してみます。
ある超絶大ヒットアニメ映画のコメントを読んでいますと、１点をつけられたコメンテーターのコメントの中に、非常に引っかかるものを見つけたんですね。その方は、監督のインタビューにたいする受け答えの非礼さを糾弾し、内容が現在のある種の世界状況において相応しくないとし、さらには作品の背景に彼の屈折した自己愛と傲慢な感性が感じられるとし、才能や技術には頭が下がるが、人間性や性向は到底受け入れられるものではないと結んでおられます。その文章は含蓄に富み、説得力のあるものでしたが、私としてはその結論には承服できません。 まず、映画に限らず作品というものは、現実世界の正義を後追いするものではないということ。現在の世界の基本的なパラダイムである人権主義や民主主義に反していたからと言って、その作品が劣っているものだとは決して言えないと思っています。むしろそういったパラダイムの外からの視点を持つことも、芸術家としては必要なことではないでしょうか。件の映画がそういったパラダイムに反するものだとは、私は思いませんが。 次に、製作者の性的嗜好や思想、性格などを元に映画を判断するのは、非常に偏狭な物の見方であるということ。言い古されたことではありますが、人間的にどんな劣った人物であろうとも、傑作を作る可能性というのはあるのです。我々は製作者の人格を判定するために映画を観るのではないのですから。 さらには製作者が作品に傲慢な感性や歪んだ自己愛を投影させていたとしても、そのことをもって作品を否定する根拠にはならないということ。そもそも感性なんてものは、誰だって傲慢な物でしょう。 ある文芸評論家の言葉で、ちょっとうろ覚えなのですが、「作品を作るということは、一方的な美しさあるいは一方的な醜さを描き出すことではなくて、美しいものと醜いもの、清らかなものと汚らわしいものを、嘔吐物や精液のように絶え間なくまきちらすことだ。」というものがありました。全く同感です。ある決められた正義が前提としてあって、そこにどれだけ近づいたかが問われるような物ではない、というのが私の考えです。 こんな無粋な文章を書いたのは、別に特定のコメンテーターの方の批判がしたいわけではなくて、このことについていろんな方のご意見を伺ってみたかったからです。ぜひ、何かご意見がありましたら、お聞かせ願います。長文失礼いたしました。 | ||
| Re: 正義の見方 | ||
| maoP | 2002年02月20日00時18分更新 | |
| ここに投稿するのは初めてなので、失礼がありましたらお許しを・・・。
実は私も、例の監督の非礼さに唖然とした１人です。精魂込めて送り出した（そうであってほしい）作品が受賞したのに、「他にもっといい映画あるんじゃない？」などと、審査員と観客をバカにしたような態度をとる彼に、人間性を見てしまった気がします。５点をつけた自分を汚されてしまった気分です。 でもやはり、映画館に監督を見に行ったわけじゃないですよね。私は１８００円を払って映画を観に行きました。そして５点をつけたわけです。あのインタヴューを見た後でも、映画に対する評価は変わりません。それでも、監督の態度を見て映画の格が下がったと感じる方は、大勢いらっしゃると思います。それはその人の見方なんだし、止めることは不可能です。 観る映画を選ぶときに、「この監督が好きだから」という理由もありますよね。それと同じで「この監督は嫌いだから観ない」または「観る」っていう選択もあると思います。そしてそれが、その人の映画世界を広げもし、狭めもするんではないでしょうか。 なんだかイリューダさんの求めてらっしゃることとずれてきてしまったかもしれませんが、インタヴューがらみで私が感じたことを書いてみました。 | ||
| Re: 正義の見方 | ||
| ろびんますく | 2002年02月20日04時00分更新 | |
| イリューダさん、maopさん、はじめまして。ろびんますくと申します。ここには初めて投稿させて頂きます。
監督（あるいは製作者）と個々の作品について、私もほぼmaopさんのご意見と同じ意見で、個人的には、少なくとも意識的には、製作者の「人となり」ではなく、個々の作品のコンテキストから伝わってきたもので評価したり好き嫌いを決めたりしています。もちろん、映画によっては、製作者の意図やカラーがそのままダイレクトに伝わってくるものもあると思いますが、そういった作品についても、製作者の生の人間性の良し悪しを評価するのではなく、その「作品」というフィルターを通して伝わってきたものとして自分で捉えたものを評価しています。 ただ、それはあくまで私個人の映画の観方です。これもmaopさんご指摘のことですが、映画の観方に正しい観方、間違った観方なんてないとも思っています。ある方にとって映画の評価の基準が製作者の人間性だということであれば、それもありだと思います。いろんな視点があっておもしろいなというのは常々このサイトに来て感じていることです。 駄文ついでにさらに言いますと、ここでの「コメントお気に入り投票」についても私の基準はほぼ同じです。コメントによっては（特に政治・戦争・歴史がらみの映画に対するものだと）コメンテータの方のイデオロギーなどを含む「人となり」などが見え隠れしたり、場合によっては丸見えだったりするものもあると思います。ただ、ここでも、少なくとも意識的には、ある映画へのコメントで自分と異なる考え方や思想を持つ人だということが明らかな場合でも、別の映画へのコメントで「おもしろい！」「そうか！」というものがあれば、私は投票してしまいます。 かなりずれてしまいましたが、製作者と作品について、個人的に思っていることを書かせていただきました。駄文、失礼いたしました。 | ||
| Re: 正義の見方 | ||
| mize | 2002年02月20日04時46分更新 | |
| うわー、難しい問題ですね。
ただそのレビューを読むと、監督自身についての批判から、それゆえにこの作品にこういう影響がみられる、それが評価し難い、というように書いてあるように思えたので、アリという気がしますが…。 「面白かったけど、この監督は顔がぶさいくだから★１」ってのはマズいですけど（当たり前すぎるか）。すごく極端な例えだと、ある人種偏見をなくそう！という感動的な映画があるとして、後日インタビューで監督が「俺自身はあんな人種はキライだしいなくなった方がいいけど、仕方なく撮ったんだぜい（賞も欲しかったし〜）」なんて言ってたらその発言も含めた評価になっちゃうと思います。 それに、そのコメンテーターの場合は元から作品への評価自体が低いようですし、逆に認めるべき部分はちゃんと認めた上での批判なので、まぁ良いんじゃないかと…。 実を言うと私にとってランス・フォン・トリアーがそんな感じなんです…。普段の彼の他人を見下したような発言がどうにも腹立たしいので、白痴３部作などを観る際に絶対影響されそうです。でもまだ『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も『奇跡の海』も観てないので、やっぱりこれはちゃんと観てから言うべきでした。失言＆駄文＆ファンの方すみません。 | ||
| Re: 正義の見方 | ||
| フランチェスコ | 2002年02月20日18時35分更新 | |
| イリューダ様はじめましてフランチェスコと申します。私も似たような疑問を持ち、随分下の方に行ってしまいましたが、掲示板にて映画における監督について？という話題を挙げさせていただいたものです。
読んでいただければ解かると思いますが、ある映画で監督が理由で作品の評価が低い物があるが、それで映画自体を評価した事になるのか？と言う感じの疑問を持ったのですが、皆さんの意見としては、総体的に全ての要素が評価の対象となる。というものでした。 さらには、多様な評価が有ってこその客観的な評価になる。というご意見もいただきました。 一般的な意見とすればイリューダ様のおっしゃっている事が総体を占めると思いますが、中には違う見方をする方もいるということです。 私自身は皆様に教えていただいた立場ですので、偉そうな事は言えませんが、その話題を読んでいただければ、少しはイリューダ様のご発言の回答になるのかな？と思います。 失礼致しました。フランチェスコ | ||
| Re: 正義の見方 | ||
| イリューダ | 2002年02月21日03時33分更新 | |
| ちょっと言葉足らずのところがあったので補足させていただきます。
私は、「監督の言っていることが嫌いなのでこの映画嫌い。」と言う感想は、ありだと思います。またたとえば「俺は阪神ファンなので、阪神を馬鹿にした映画（そんな映画があるかどうかは知りませんが）は嫌いだ。」と言うのもありだと思います。ただ、それはあくまで個人的な感想です。もちろん一本の映画に対してそれぞれが率直な感想を言い合うのはそれはそれで十分に意義あることですし、そういう自由な雰囲気がこのシネスケの魅力ですよね。私も感想コメントはたくさん書いてますし。
しかし、批評という、作品の優劣について普遍性を獲得する、少なくともそう志向するべき場においては、それなりに普遍的な「論理」というものが必要になってきます。そういう場において、「この作品が『現実の正義』にかなっていないから、もしくは監督の思想に問題があるから、この作品を評価しない」というのは、ちょっと成り立たないのではないだろうか、と思ったのです。つまりそもそも立脚点が違う人間に対して、最初から議論が成立しないような論理が批評の中に含まれる場合、それはすでに批評ではなくなるということです。巨人ファンに対して、「この映画は坪井のバッティングフォームにけちをつけているから駄作だ。」といっても通用しないように。 ・・・なんだか例をあげたらわかりにくくなってしまいました。まあつらつらとこんなことを書いてみましたが、もちろん皆さんのおっしゃるとおり「正しい見方」を強制する権利など私にはありません。偉そうなことを言ってますが、私はそんなに数、観てませんし。映画。心の中のさまぁ〜ず三村に「何様だよ！！」と突っ込まれながら冷や汗を流して書いている次第ですが、まあこういう議論をする時には、「全ての意見は等価である。」という、価値相対主義は棚上げしないと成り立たない部分もありまして、あえて道化を演じてみた次第です。 maop様、ろびんますく様、ザ・ミゼラブル様、フランチェスコ様、貴重なご意見をありがとうございました。 | ||
| Re: 正義において是非を論ずることの危うさ | ||
| かける | 2002年02月21日14時39分更新 | |
| イリューダさん、はじめまして。
本スレで取り上げられているのはおそらく私のコメントについてだと思います。 以下、当該アップが、私のコメントに起因するものという前提で書かせていただきます（もし違った場合はごめんなさい）。 ＞本ツリーからお読みになった方 イリューダさんのご意見は、私の『千と千尋の神隠し』へのコメントから派生したものだと思われます。未読の方は、拙コメントを一読いただければ光栄です。 私の上記推測の正誤については、イリューダさんご本人から追認もしくは否定をいただけたら、と思います。よろしくお願いいたします。 -- さて、レスに入ります。 まず、あれだけの長文を読んでいただいたことに感謝します。 このような形で追確認でき、うれしく思います。また、 > 文章は含蓄に富み、説得力のあるもの との過分なコメントをいただき、恐縮しております。ありがとうございました。 しかしながら、あのように婉曲な形で取り上げられたのは、大変残念でした。 ハンドルではありますが、記名の上アドレスも公開してアップしている文章です。個人批判でしたらいかようにでもお受けする覚悟は常に持っています。 -- 最初に、私の『千と千尋……』へのコメントは、言葉不足だった部分もあり、「人物批判のための作品批判」であるかのように受け取られてしまったのは大変残念でした。大いに反省しています。 私の意図するところは、以下のような作品論に立脚しているもので、人物批判は副次的なものでした。それでいて、私が作品論から帰納的演繹的に宮崎駿の人格に言及するのは、それが作品本体と不可分であると考察したからです。 その点において、私の宮崎批判は、「作品と作家の人格との関係性」を端緒にしたものではないことを、最初に強調しておきます。 本論に入ります。 まずこの作品は、そのメッセージ性はさておき、ＰＣ的な問題を抱えています。 私はあくまで「少女が搾取労働を強いられる」ことを問題の発端だと考えます。 そして、舞台が遊廓に擬せられた施設だということで問題性が強まり、ＰＣの領域を飛び出し、良識や道義といった範疇の問題になっていると言えるでしょう。 「名前を収奪される（源氏名を与えられる）」というディテール、「遊廓における”禿（かぶろ……お手元に広辞苑がある方はぜひご参照ください）”という職制の存在」といった状況的な証左をして、油屋がまさに江戸期の湯屋に相当する施設だ、という受け取り方も、決して不自然ではないと思います。 取り上げている状況が状況なだけに、確信犯ではなかったにしても「未必の故意」と指弾されてもしかたないのではないでしょうか。 また、油屋がいわゆる「湯屋」であると、宮崎駿本人が言及していると、アップされているコメンテーターの方もいらっしゃいました。他の場所でも、伝聞としては私も認知しています。 氏本人の発言について、掲載媒体や主旨についてご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひアップしていただければ、と思います。 さて、イリューダさんは、私がＰＣ論を持ち出したことをして、 > 正義を後追いするもの とおっしゃるかもしれないし、 > 現在の世界の基本的なパラダイムである人権主義や民主主義に反していたからと言って、その作品が劣っているものだとは決して言えない ともおっしゃるかもしれません。 まず、私は「現在の世界の基本的なパラダイム」が「人権主義や民主主義」であるとはとても思えません。悲しいことですが、それはCNNを何分か見れば嫌でも目に飛び込んできます（『百人の村』ではありませんけれど）。 そして、我々が享受しているそういったパラダイムが存在しない、そういった社会にこそ、子供への搾取労働行為が多く存在しているのも、また事実です。 共同体の意識として子供を庇護するのは、コロニーを持って生活するゾウやカバ、クジラにも見られる基本的な習性で、私達の社会もかくあるべきだし、そういう意味では先述の搾取労働が存在するような社会というのは、畜生道にももとると言えるでしょう。 だからといって、私は正義不正義を論じようというのではありません。その図式では、自身の「善」に対する他方の「悪」ということになってしまいます。 私はそのような居丈高な物の言い方ができるような、高潔な人間ではありません。 しかし、子供を愛し慈しむというのは、正義等の是非論以前の、生物種の持つべき根本的な本能なのではないでしょうか。 もう一点、 > 製作者の性的嗜好や思想、性格などを元に映画を判断するのは、非常に偏狭な物の見方であるということ。 「偏狭」とまでは思いませんが、基本的に同感です。 もし作り手のパーソナリティに問題があったとしても、作品に優れた点があれば、それは評価されるべきだ、というのは、基本的前提だと思います。 例えば作り手がイスラム教徒であったり、ナチズム礼讃だったり、ゲイやレズビアンだったとすれば、その拠って立つところと私のそれとの差は、大変大きなものになります。 だからといって、それを「作品」を判断するための前提や基準にはしません（余談ですが、私はセクシュアリティというのは性的「指向」であり、「嗜好」の範囲には留まらないと捉えています）。 僭越ながら私の他のコメントを読んでいただければ、散見していただけることですが、私はクラシックバレエが大好きで、またコリオグラファーや踊り手にも知己や友人が多くあります。 かの世界にゲイの人が多いのは事実です。私自身はヘテロセクシュアルですが、だからといって彼等の作品やパフォーマンスを彼等の性的指向によって評価することはありません。 それでは、なぜ宮崎作品を「潜在的な性的指向」の存在において批判するかというと、同性愛や幼児性愛といった「性的未成熟」により惹起されうる性癖の存在を、客観的な考察であきらかにできるような作品が、かくも広範かつ大規模な資本投下で宣伝され、かつ子供たちを主対象に制作公開されているからです。 特に『千と千尋……』については、「１０歳の女の子」が具体的なターゲットとして想定されている、とも聞きました。 となれば、内包する暗部をして「子供に安心してみせられる作品」であるかのように喧伝されている現状には、一定の危惧を持ってしまうのです。 -- また、イリューダさんは、「記者会見での非礼な態度」への考察について、当該コメントからの引用抜粋部分のみをして考察されているようにも見受けられます。 しかし私は、氏の「追悼企画において物故者を辛辣に批判をするような」態度に合わせて言及し、かつ、それについて詳しく触れた拙コメントがある『もののけ姫』への引用リンクもしていました。 私が「傲慢」と表現したのは、今回の記者会見云々のみではなく、あくまでもそれと合わせた上でのものだったことを、あらためて強調しておきます。 また、『紅の豚』への拙コメントでは、氏の同業他者への居丈高な批判についても触れています。それも含む以前からの言動も勘案した上で、あのような文章になった、ということもあると言えるでしょう。 -- 最後に、イリューダさんは本スレの元コメントで、 > そもそも感性なんてものは、誰だって傲慢な物でしょう。 と書かれていましたが、その定義の真偽はともかく、本日ご自身でつけられたレスにおいて、 > 普遍性を獲得する、少なくともそう志向するべき場においては、それなりに普遍的な「論理」というものが必要 と、書かれていたこととの関係性に、私は整合性を見い出すことができませんでした。 傲慢な感性に基づく「感想」が、普遍性を指向するべき「批評」足り得るためには、普遍的な「論理」が必要だ、ということなのでしょうか。 たしかに、私も、ディベートの授業であれば、そうする必要に迫られることでしょう。 そんなにまで「普遍性」に言及されるのであれば、元コメントで、まるで欠席裁判のように自身のコメントが取り上げられた私の悲しみは、余計に大きくなってしまうことでしょう。それこそが、イリューダさんのおっしゃるところの「最初から議論が成立しないような」構造だったのではないか……という思いで、拙文をしめくくらせていただきます。 長文におつきあいいただき、ありがとうございました。 | ||
| Re: 正義において是非を論ずることの危うさ | ||
| イリューダ | 2002年02月21日21時07分更新 | |
| かける様、はじめまして。イリューダと申します。よろしくお願いします。
ご指摘のとおり、私の発言はかける様の『千と千尋の神隠し』についてのコメントを念頭においてなされた物です。お名前を出さなかったのは、私の発言がかける様のコメントに対する一方的な批判ととらえられ、そのことによってこの掲示板の雰囲気が壊れることを恐れてのものでしたが、かける様の了承も無くコメントを引用して発言をしたのは、今考えると大変失礼なことでした。この点については、重々お詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。 さて、本スレで私が主張した論点は以下のとおりです。 �￣撚茲瞭睛討�、現在の基本的なパラダイムである民主主義等の枠外にあったとしても、そのことをもって、作品の評価を下げる根拠にはなり得ないのではないか。 ��監督の個人的な資質（作品に直接関係する才能や技術を除いた）が映画を批評する際に鑑みられるのはいかがなものだろうか。 整理すればこの２点です。 さらに補足として、ただしこれが個人的な感想であった場合は、あくまで個人の自由である、と述べました。 さてかける様は、『千と千尋・・・』がポリティカルコレクトの問題も、良識や道義も超えた、人間の本能的な部分で問題があるとおっしゃるのでしょうか。それはあまりにも議論が形而上的というか、そのようなことを言い出せばそれは批評の敗北だと思います。「生物種の持つべき根本的な本能」などというものは定義が曖昧な上、論証不可能であり、さらには本能に合致していない表現が許されないという理由も、よく分かりません。結局この点で問題なのは、「少女が搾取的労働を強いられること」に対する不快感が、批評にどう影響するか、ということだと思います。 旗幟を鮮明にしましょう。私はたとえ映画の中に「畜生道にもとる」表現があり、社会的に非難を浴びるのが当然であったとしても、その映画の評価は別の場で行われるべきだといいたいのです。 次の点です、正直言って >それでは、なぜ宮崎作品を「潜在的な性的指向」の存在において批判するかというと 以下のかける様の発言の趣旨が、私にはよくわかりません。つまり、問題は表現自体には無く、作品の公開形態や資本投下の形態にあるということでしょうか？それではよりいっそう幼女愛的傾向が客観的に考察可能な「不思議の国のアリス」等の作品がより広範囲に、より容易の当の少女達に読まれている現状は、どうお考えでしょう？さらにいえば、『千と千尋・・・』が少女達に「安心して」観られた場合、そのことによって少女達にどのような悪影響が及ぼされるとお考えなのでしょうか？ 私は「感想」はそれぞれの傲慢な感性が命じるままに、好きなように書けばよい。ただし、「批評」と言うのは、万人が土俵に上がることの可能な、あくまで公正な論理によって書かれなければならないと思っています。「感想家」と言う職業が無くて「批評家」と言う職業が成立するのはそのためです。（エッセイスト等が、自分の感想を文章の中で述べてギャラを受け取ることはあるでしょうが、その場合、彼らには『これは個人的な感想であり、他人に押し付けるものではない』と言う逃げ道が用意されています）その批評が感情から発するものであることは、批評家も人間であれば当然でしょう。ただし、それが批評であるためには、あくまで「論証不可能なもの」を文内に含まない、論理的なものであるべきだ、と思っています。そうでなくては、その批評に対する批判も議論も成立しませんから。 かける様の『千と千尋・・・』に対するコメントは、ただ自分の感想を述べたものではなく、他人に向かってのベクトルをもつ「批評」として書かれたものだ、と私は愚考いたしました。そしてそのような批評であるためには、その構造には問題があるのではないか、と思い、あえて本スレのような発言に及んだわけですが、かける様の名前を出さずに発言したことは、返す返すも私の誤りでした。このことによってかける様に不愉快な思いをさせてしまったことについては 本当に悔やんでおります。申し訳ありません！ 私としては、自分の考えをはっきりさせるためにも、かける様にこのような内容の濃いレスをいただいたことは非常に有意義がつ光栄なことだと思っております。どうもありがとうございました。 | ||
| Re: 正義において是非を論ずることの危うさ | ||
| くたー | 2002年02月21日23時11分更新 | |
| イリューダさん、かけるさん、はじめまして。くたーと申します。
かなり微妙な問題を論じられていて、非常に興味深く皆様の意見を拝見しております。大筋のところでmaopさんやろびんますくさんと同意見です。どんなに誹謗中傷めいた意見のように思えたとしても、ちゃんとその映画を通して論じていれば、特に問題はないような気がするのですが。個人的にはかけるさんのreviewを拝見して、「監督の人間性がダメだからこの映画がダメだ」みたいな乱暴な言い切りというよりは、「映画の技術的な出来は素晴らしくしても、本編を通してこれこれこのような人間性が垣間見れ、その点に関しては全く共感し難い」みたいなニュアンスとして受け取りました。かけるさんにとって、「共感」とか「メッセージ性」というのが映画を見る上で重要な要素であるなら、それで１点つけるのもアリなのではないかと思った次第です。映画というものの中には、様々な「論点」があって然るべきだと思うし、その中には「メッセージ性」や「人間性」みたいなものも、当然含まれてくると思われるので。あくまで個人的意見ですが・・・。 でも申し訳ありません。今回しゃしゃり出てきたのは、このことを論じる意外にも理由がありまして。かけるさんのスレッドの中に気になる表現があったので、恐縮ですがひとこと言わせてください。同性愛を「性的未成熟」によって惹き起こされということに、具体的な根拠はあるのでしょうか？かけるさんがそういった人たちの性癖を「嗜好」ではなくて「指向」と（おそらく個人的に）考えるということは、もちろんアリだとは思うのですが、少なくとも「性的に未成熟である」という言葉を使って彼らの存在を説明するからには、具体的にどの段階で成熟が止まっているのか、さらにはそれがどのように彼らの性癖の要因になり得るのかが、十分な「根拠」をもって説明されてなければこの表現はちょっとヤバいのでは（ちょっと「オマエらは一人前ではない」って感じに受け取れたので）・・・。 このサイトには(幼児性愛の方は何とも言えませんが）同性愛の方もおそらく参加されていると思うし、ましてや「自分はゲイです」と前もって公言されて、貴重なコメントを私たちに提供してくれている方も実際いますし、であればなおさらのことこのテの表現には気を使わなければいけないのでは？「根拠のハッキリしない」、というのは言い換えれば「いわれのない」ということだと思いますし、そういった言葉を曖昧なまま使うことで、結構当事者を傷つけてしまうことはままあると思うのですが・・・。同性愛者の友人がいる身としてはひとごととは思えなくて、あえてちょっと言わせて頂きました。本筋の話題を逸脱してしまったことをお許し下さい。 | ||
| Re: レスありがとうございました | ||
| かける | 2002年02月23日02時43分更新 | |
| 先の批判対象が私のアップしたreviewであることを特定されたことに感謝します。
-- > 現在の基本的なパラダイムである民主主義 その説に対する疑問と、私の本論との関係性は前回書いたとおりです。例えば世界最大の人口を持つ国は全く違いますし、世界一の軍事経済大国も国境を超えたところでは同様かもしれません。 -- > 監督の個人的な資質（作品に直接関係する才能や技術を除いた）が映画を批評する際に鑑みられるのはいかがなものだろうか 二義的な人物批判は作品論からの帰納的演繹的な考察と前回書いたとおりです。 -- > ポリティカルコレクトの問題も、良識や道義も超えた、人間の本能的な部分で問題があるとおっしゃるのでしょうか。それはあまりにも議論が形而上的 ＰＣはプラクティカルな問題に過ぎず、「形而上的」といった抽象論には該当しないと思います。 -- > 「生物種の持つべき根本的な本能」などというものは定義が曖昧な上、論証不可能 私は「子供を庇護」「子供を愛し慈しむ」ということを「本能」と書きましたが、それを > 曖昧な上、論証不可能 とおっしゃるなら、拠って立つ場所があまりにも違いますので、この場で論じることはいたしません。 -- > 問題は表現自体には無く、作品の公開形態や資本投下の形態にあるということでしょうか？ そのへんは、『もののけ姫』の拙reviewと結びついていた部分もあり、構造的に不誠実だったかもしれません、ごめんなさい。 「原始共産制回帰というラジカルなメッセージを、大資本を投下したメディア戦略を介して行っている（略）自己矛盾（拙review『もののけ姫』）」 「このご時世に（略）少女が搾取労働を強いられる、というストーリー（同『千と千尋……』）」 これらネガティブ要素が「性的未成熟を内包する作品世界」や、「社会儀礼や死者に対する尊厳を欠くパーソナリティ」という前提を持ち、子供たちを主対象に制作公開されれたのであれば、その批判の度合いを強める他ない、というのが私の立場です。 -- > よりいっそう幼女愛的傾向が客観的に考察可能な「不思議の国のアリス」等の作品がより広範囲に、より容易の当の少女達に読まれている現状は、どうお考えでしょう？ まず『「不思議の国のアリス」等』とおっしゃるところが、具体的にどういった作品を指すのかが判然としませんので、なんともお答えのしようがありません。 あるいは、ルイス・キャロルの原作や、ディズニー版の映画の『不思議の国のアリス』単独で考えたとして、国内における認知度を比較したときにどのような差があるのかについては、判断する材料も方法も無いので、私にはわかりません。 そして、当サイトそのものや当BBSにおいて、そういった相対的比較をする必然が、私には認知できません。 私は、等サイトの現状を考えたときに、それは様々な価値観のクロスオーバーと、言わばエールの交換とも言える。立場を意にする個人同士の顕在的潜在的な交流にあると感じていました。 ですので、ここでそのような相対論を提起される理由がよくわかりませんし、そのような「為にする論」は本サイトの主旨から逸脱するものだと個人的には認識しています。 -- > 『千と千尋・・・』が少女達に「安心して」観られた場合、そのことによって少女達にどのような悪影響が及ぼされるとお考えなのでしょうか？ 単純化するために卑近な二元論にしますが、搾取労働を強制されるストーリーよりも、少女と不思議な生物の交流や、パンダの親子が出てくる作品の方が平和だと思います。 -- > 「批評」と言うのは、万人が土俵に上がることの可能な、あくまで公正な論理によって書かれなければならない 「感想」と「批評」は可分だと定義されていますが、私には可分不可分かを語るだけの材料や能力は無いようです。 また、私は「感想家」ですらないただの映画好きですから、書いた文章が「感想」の範疇に留まる傲慢なものだったのかもしれません。イリューダさんが私のreviewを「批評を装った傲慢な感想に過ぎない」と断罪されるのであれば、それは甘んじて受けます。 しかしながら、当スレの元コメントや、前回のアップのように、恣意的な引用をくり返した上で個人批判をくり返されるのであれば、それこそが先述した「為にする論」だ、ということにもなるでしょう。 review本文をはじめ、語るべきことは語りつくした感がありますので、今後本スレで同主旨の発言をすることはないと思います。 最後になりましたが、取り上げていただきありがとうございました。 | ||
| Re: Re: アンチフェミニズムを語ることの不毛 | ||
| かける | 2002年02月23日02時48分更新 | |
| くたーさん、はじめまして。レスありがとうございました。
> 同性愛者の友人がいる身としてはひとごととは思えなくて という形で触れられていたセクシュアリティの問題ですが、先のアップで、 >> 私はクラシックバレエが大好きで、またコリオグラファーや踊り手にも知己や友人が多くあります。 かの世界にゲイの人が多いのは事実です と、婉曲な表現をしたのは、要するに私にもゲイの友人がいるということをしてでした。 私が、セクシュアリティを「嗜好」ではなく「指向」であると思えるようになったのは、それだからこそ、というのが大きいでしょう。 学生運動が盛んだった当時の価値観に安易に賛同するものではありませんが、行動（生活や実体験）が思想（価値観や論拠）を定義する部分もあるのは事実でしょう。 > そういった人たちの性癖を「嗜好」ではなくて「指向」と（おそらく個人的に）考えるということは、もちろんアリだとは思うのですが それを「個人的」すなわち、私の「独善」であるとされるのはかまいません。 しかし、セクシュアリティを「嗜好＝単なる好み」の問題として捉え、「指向＝意識の介在するもの」と認知しないのであれば、極めて大時代的で、アンチフェミニズム的な発想としか思えません。例えば、ＴＧやＴＳを「嗜好」の範疇だけで語れるでしょうか。私はそういう硬直的な価値観とは一線を画したいと考えています。 意識の介在の有無は、形而上と形而下の違いであり、卑近な言い方をすれば上半身と下半身くらいの違いがあると思います。 現代における様々なセクシュアリティの錯綜を、そういったアンチフェミニズムで捉えるのは、過剰に保守的ではないでしょうか。ご友人がいらっしゃるというのでしたら、なおのことそういった部分をないがしろにしては欲しくないと切に願います。 > 同性愛や幼児性愛を「性的未成熟」ということに、具体的な根拠はあるのでしょうか？ 未成熟という表現自体は、ある種の性愛や性癖を語るときに心理学的に使われる言葉で、私個人の感想というわけではありません。 >> 拙コメントがある『もののけ姫』への引用リンクもしていました と書きましたが、そちらで、 >> 精神科医の香山リカは「宮崎アニメが何かにつけて『安心』と言われるのは、暴力シーンや性的なシーンが出てこないからではなくて、「父の名」のもとに自らの名前を完全に剥奪し、絶対的に服従させるような「絶対的他者」が出てこないからなのである」と書いた。フェミニズム的論議はさておき、父親不在という状況が、男子のホモセクシャル的志向の誘因となる、というのは心理学的な考察として実在する。となれば専門家である香山が、言外にその認識を持っていたと考えるのは不自然ではない。 としていたように、ある性的指向が、その形成段階における、何らかの挫折により醸成されうる、というのは心理学に一般的にみられる考察です。心理学の基礎的な部分として、高校の現代社会や大学の一般教養レベルでも、そういった考察に触れるケースがありますから、荒唐無稽な風説とは言えないと思います。 同性愛を忌避する立場の人たちは、原因は染色体異常にあるとか、遺伝子がどうとかといったことを言い立てるようにもなってきています。私は、そういったヘテロセクシュアル優位主義とでもいえる硬直した価値観こそ、根本的な差別行為だと思います。 しかし、セクシュアリティを心理学的な見地から考えることは、自然科学としての態度であり、人物論や民族論と同様なものだと信じます。そういった考察＝差別というのでは短絡的すぎるのではないでしょうか。差別のためにDNAまで持ち出す、といった「為にする論」とは、方向性が異なると思います。 あるがままを受け入れることと、顕微鏡まで持ち出して差異を見い出そうとすることでは、位相が全く違うのではないでしょうか。 長文におつきあいいただき、ありがとうございました。 | ||
| Re: お騒がせしました。 | ||
| くたー | 2002年02月23日05時16分更新 | |
| かけるさん、懇切丁寧なレスをつけていただき、ありがとうございます。
「性的未成熟」という言葉の背景にあるものを、ようやく理解することができました。と同時に、自身の教養不足に恥じ入っている次第です。申し訳ございませんでした。ただ私程度の学術的な知識しか持ち合わせてない人間の目には「未成熟」という言葉がどのように写るのか、それが少し心配だったのです。「未成熟」という語感を考えた際、やっぱり説明が欲しいとは思うのですが、かけるさんのおっしゃるようにそのこと自体が、広く基礎知識として一般に知っていて当然である類のものだとしたら、注釈は必要ないワケですね。だとしたら私のマヌケな取り越し苦労です。重ね重ね申し訳ございません。 あともしかけるさんに対して、「オマエは意図して差別してる」と私が言っているように受け取られているとしたら、そのことに対してもお詫びすると共に、そのようなことは全く考えていないことも付け加えさせて頂きます。ただ単に「根拠」を明らかにしないまま使う事に危惧を覚えた、ということです。でも「根拠」を必要としない程、一般に知れ渡ってる類のものであるとすれば、これもまた問題ナシなんでしょうね。ちなみに「あるがままを受け入れる」という言葉には、とても共感できます。大切なことだと思います。 「嗜好」と「指向」の件に関しては、「指向」という言葉の解釈に、若干食い違いがあったのでしょうか。「指向」の「目指し向かうこと」という意味を考えると、何らかの意志をもって彼らがその道を選んでるように思えるのですが、実際「同性が好きなのは、どうしようもない事」みたいな意見を当事者からも聞きますし、そのことでなおさら「どうしようもないけど、好きにならずにはいられない」みたいなものを、あるがまま受け入れようと個人的には思ってるワケです。ただ、これも個人的な意見です。それと同じようなスタンスで、かけるさんの意見も個人的な見解だと思ったワケですが・・・。別に「独善だ」と責めたてるつもりは毛頭ありません。が、もしそのように伝わってしまったとしたら、それはひとえに私の文章の表現能力に問題があるのでしょう。ここでまた、申し訳ございません（これだけあやまってると、有りがたみもあったもんじゃないですね）。 私から巻き込んでおきながら、このような情けない返答しかできなくて、恥じ入るばかりです。何よりかけるさんに、必要以上に不快な思いをさせてしまったのではないかと、（自分でやっときながら何ですが）心配しております。そしてそのような印象を与えてしまう文章を書いてしまったことを、深く反省しております。 | ||
| 最後に | ||
| イリューダ | 2002年02月23日12時03分更新 | |
| お互いの共通点を見出すことは不可能に感じられましたので、かける様のレスについて本質的な部分にはふれません。同じことの繰り返しになりますので。
ただ、どうも気になるのですが、パラダイムと言う言葉を誤解なさってませんか？私は世界の津々浦々に民主主義や人権主義がいきわたっていると言っているのではないのです。しかし我々の尺度ではかればどう見ても民主主義的とはいえない国家でも、その国の元首は内心はどうあれ「わが国は民主主義国家だ」というでしょう。少女達を搾取的労働に追い使っている人間でも、公の場に引っ張り出して質問すれば、「それは悪いことだった。」というでしょう。なぜならそういわなければ世界的な非難を浴びるのが明白だからです。「民衆の福祉より支配者の意思が優先される。」と正面きって発言できる国家元首が現在世界にいるでしょうか？もちろん全くいないと断言することもできませんので、「基本的な」と申し上げたのです。そしてそのようなパラダイムを論拠にして、映画は評価できないはずだと主張したのです。民主主義や人権主義でさえ現在のパラダイムになりえないとすれば、現在のパラダイムは「地動説」くらいしかなくなってしまいます。 さてどうも議論が映画からかけ離れてきたので、私としてもこの辺で発言を終了します。また、この発言についてかける様のレスがつかなくても、かける様が私の意見に承服したなどとは考えません。 | ||
| Re: セクシュアリティにおける「意識」の介在 | ||
| かける | 2002年02月23日14時19分更新 | |
| くたーさん、こちらこそレスありがとうございました。
まず、用語の問題についてのご指摘に感謝します。 当該reviewでも、『もののけ姫』へのreviewにて香山リカの文章を引用したように、基礎的な部分についての言及が必要だったのかもしれません。 その他にも、私の当該reviewはたしかに言葉足らずの部分もありました。その事実は真摯に受け止めています。 その観点から、私の宮崎作品に対する一連の考察や言及を、系統だったものにするため全面的に見直し、いずれかの機会により良い形で再掲できるように、再考の時間をとろうと思っています（しかしこれは、根本的な着目点や主旨について、改めるわけではありません）。 次に「指向と」「嗜好」の件は、おっしゃるような解釈論というよりは、言語論、そしてセクシュアリティそのものの捉え方の問題だと思います。 まず、私は先のアップで、「指向」を > 意識の介在するもの としました。しかしくたーさんは、指向に介在するのは > 何らかの意志 とされています。 たしかに非常に似通った言語的定義ではありますが、こういった問題を論じるときには「意識」と「意志」の間にある差は大きいと思います。 例えば、意識と無意識を対立命題として考える場合と、意志無意志のそれでは全くニュアンスが異なってしまうのではないでしょうか。 意識と無意識は「カードの裏と表」のような形で存在しえますが、それが後者の場合は「家の中と外」くらいの差になる場合もあるかと思います。 また、これは例えば広辞苑などを参照いただきたいのですが、「意志」の倫理学的な定義は「知識・感情と対立するもので、知・情・意の一角をなすもの、です。 となると、くたーさんが、 > 「どうしようもないけど、好きにならずにはいられない」みたいなもの と表現されているような状態を、知識や感情と対立した状態と考えることもできるのではないでしょうか（これは倫理学的な考察であり、私自身はセクシュアリティの問題をそれで論じようとは思いません）。 また以前、東京都立青年の家使用拒否問題訴訟で知られる「アカー（動くゲイとレズビアンの会）」のスタッフの方と、女子高の教師である女性が、生徒に自身がレズビアンであることを告白したケース（愛知だったか大阪だったか記憶が曖昧になってしまいました……）について話をする機会がありました。 そのとき、性的「しこう」とは「指向」なのか「志向」なのか、あるいは「嗜好」なのか、という話題になりました。 結論から言うと、「指向」や「志向」であったとしても、「嗜好」というのは短絡的で、ともすれば差別になりかねない、という話になりました。 なぜなら、酒や煙草を指す嗜好品という言葉があるように、単純な慰みもののようにとらえられてしまっては、それこそ形而下行為の為だけに存在する感情や意識だと思われかねないからです。 前回、 >> 意識の介在の有無は、形而上と形而下の違いであり、卑近な言い方をすれば上半身と下半身くらいの違いがあると思います。 としたような考察に、まさになったわけです。 例えば、男性にも女性にも、同性愛者に近づくと「犯られてしまう」といった短絡的な認識をする人は少なくありません。それ自体は、単なる男根主義のポジとネガなわけですけれど、セクシュアリティを「嗜好」の範囲で捉えることは、そういった浅薄な認識を補強させかねない危うさを持っているのではないでしょうか。 以上のように、私がセクシュアリティを「性的指向」と定義するのは、ある程度の客観性と、先鋭的に活動しているゲイの人たちとの共有認識も前提にもしており、個人的な考えや見解を超える部分もあると考えています。 しかしながら、本件において一番重要なのは、私とくたーさんは「あるがままを受け入れる」という視点の共有を認識できたことだと思っているのも事実です。そういう意味でも、色々と有意義にお話しできたと思います。 ありがとうございました。 | ||
| 率直な意見を少々 | ||
| ビビビ | 2002年02月23日14時44分更新 | |
| みなさんはじめまして。タキオンと申します。『千と千尋の神隠し』は私にとっては５点満点の映画です。しかし、１点をつけた方のreviewも大変参考にさせて頂いています。これこそ、このサイトの醍醐味であると考えています。
単なるメジャー嫌い・大衆嫌いによる人気作品に対する安直なバッシングならともかく、私のように表面的に観て手放しに大絶賛した者にとって、別の（もしくは深い）観点から論じたコメントは例え反対意見であったとしても大変参考になるのです（それでも私の評価は揺るぎませんが）。 大好きな作品だからこそ、キレイ事だけでなく、極めて柔軟に、自分と異なる意見を聞いてみたいのです。それはもちろん、すべての映画において、です。 | ||
| タキオン様のご意見と同様なのですが・・ | ||
| 秦野さくら | 2002年02月23日22時06分更新 | |
| はじめまして。こちらの書き込みは初めてになります、秦野さくらです。 議論の本質に触れるコメントではなく恐縮ですが、わたしもタキオン様のご意見同様、自分の意見やコメントや評価とは違う他の方のコメントについても大変楽しく拝見し、参考にさせていただいています。個々の歴史や知識、環境によって様々なものの捉え方があり、ひとつの作品に対してもこれほどの捉え方や意見があるのかと、感動すら覚えていつも拝見しているのです。特に力の入った、そして思い入れの入った意見は、自分の意見の相違に関わらず興味深く拝見しています。それを肯定すれど否定することなく拝見できるのがこのサイトの醍醐味だと感じているのです。 | ||
| Re: 正義の見方 | ||
| G31 | 2002年02月23日23時51分更新 | |
| イリューダさん、かけるさん、お二人の議論を楽しく読ませていただきました。お二人ともすでに終結宣言をされてらっしゃいますので今更ですが、私からも少し言わせてください。
イリューダさんが｢現実の世界のパラダイムに反しているからといって、その作品の評価を下げる理由とするのはおかしい｣と言っているのに対して、かけるさんが｢否、現実世界のパラダイムに反している作品は、評価を低くして当然である｣と言っているのか、｢何も現実世界のパラダイムに反しているから映画の評価を下げているわけではない｣と言っているのかがよくわかりません。たぶん、前者だと思われますが・・・。 私にとっては、人権や民主主義に反するというだけでは評価を下げる理由にはなりません。子供を可愛がるという価値観に反するものだとすると、眉をひそめるだろうという気はします。ただ、それが直接映画の評価を下げる理由にはならないだろうという点では、イリューダさんと同意見です。批評としてではなく苦情として、｢ＰＧ-12｣や｢Ｒ-15｣に指定せよ、と主張するかもしれませんが。『千と千尋』がそういう映画だとは考えていません。 | ||
| Re: パラダイムへの「言及」 | ||
| かける | 2002年02月24日01時47分更新 | |
| G31さん、ご発言ありがとうございます。
本スレでこういった主旨で再発言するのは本意ではないのですが、私のアップについて、やや異なった受け取り方をされていた部分があるようなので、その事実関係についてだけ、一言申しあげます。 > ｢否、現実世界のパラダイムに反している作品は、評価を低くして当然である｣と言っているのか > ｢何も現実世界のパラダイムに反しているから映画の評価を下げているわけではない｣と言っているのか 以上二ケ所において、私が当該作品を、 > 現実世界のパラダイムに反している とコメントしたと認識されているようですが、先のアップでの私の発言は、 >> 私は「現在の世界の基本的なパラダイム」が「人権主義や民主主義」であるとはとても思えません。 というものでした。 そもそも私自身はパラダイム論を持ち出してはおりませんし、また、その定義に変わるパラダイムについての自説を提示してはおりません。そして、最終的にパラダイムに基づいて当該作品を評したわけではありません。 また、世界の趨勢としてのパラダイムが、どういったものであるか、ということについては、この場で論じることではないと思います。 私の論旨そのものについては、既にできる範囲内では語りつくしたとも言えますので、再掲はいたしません。 しかしながら、当該reviewに言葉足らずの部分があった事実は真摯に受け止めています。その観点から、宮崎作品に対する一連の考察や言及を、系統だったものにするため全面的に見直し、いずれかの機会により良い形で再掲できるように、再考の時間をとろうと思っています。 さて、G31さんのPGに関する言及は、大変興味深く受け取ることができました。当該作品に限らず、今後の映画への視点において、大いに参考にしたいと思います。 ご発言をありがとうございました。 | ||
| 宮崎監督の発言 | ||
| OK | 2002年02月24日11時21分更新 | |
| どうもはじめまして。
議論もおさまりつつあるようですが、個人的には、宮崎監督の発言の受け取りかたにいささか違和感をおぼえたので、少し書かせていただきます。 話題になっているかけるさんの『千と千尋の神隠し』コメントは、ベルリン映画祭受賞時の宮崎氏の次のような発言を「非礼だ」と断じておられました。 （引用） 記者「この受賞は創作活動の励みになる、ということは？」 「（言下に）ありません」 （引用） 私の見た記者会見では、次のような文脈の説明がなされていたと思います。 ・映画を作るのは賞のためでなく、観客に楽しんでもらうため。 ・外国の映画賞を特別に有難がるのもなんだかねえ。 ・引退寸前の爺さんなので「今後の励み」といわれても…… とのこと。 以上の点を踏まえたうえで「非礼」と感じるかどうかは人それぞれの判断ですが、ちょっと微妙なところではないだろうかと思いました。また、「もっといい映画はなかったのかね」というのも、理想が高いがゆえの韜晦めいた発言かもしれません。 もともと個人的には、作家の発言なんていつも話半分に聞いておくべきものだと思っています。特に宮崎氏はいつも口数が多く、また結構へそまがりな発言をする人物ですよね。 というのが投稿の主旨。以下は雑感です。 ・映画の感想で、どうしてもある点にひっかかって評価が下がり、それが第三者から見ると本質的な論点に思えないこともある、というようなことは往々にしてありうると思います。それは特におかしなことだとは思いません。 ・作品批判ではない「個人の人格批判」を絶対にしてはいけない、とは思わないのですが、かなり慎重で周到な書きかたをしないと反発を招きやすいだろうと思います。 ・『千と千尋の神隠し』に違和感をおぼえた人は、以下の痛烈な論評を読むとすっきりするかもしれません。（熱心な愛好者のかたにはお薦めしませんが……） http://www.ya.sakura.ne.jp/~otsukimi/hondat/view/sen.htm ・個人的には、この作品は『A.I.』（少年ロボットが虐待される）のあとに観たせいか、子供の扱いにさほどの抵抗を感じませんでした。というか少しほっとしたくらいです。 | ||
| Re: 僕も率直な意見を少々 | ||
| muffler&silencer[消音装置] | 2002年02月24日12時49分更新 | |
| みなさん、こんにちは、muffler&silencer[消音装置]ことサイマフです。
イリューダさん、かけるさん、そして皆さんの投稿興味深く拝読しました。 実は、かけるさんがレスをつけられる前に、僕も本スレッドに一度投稿したのですが、いろいろ考えた挙句、しばらく静観したほうがいいと判断し、削除しました。今朝、タキオンさんのレスに触発され、僕も＜辛辣＞なコメンテーターとして一意見を述べたいと思い立ったので、改めて投稿します。 僕は本スレッドは、以前フランチェスコさんが立てられた「映画における、監督について？？？」という映画批評における作家性の比重についての問題と言うよりも、「コメント・評価のあり方」についての議論だと感じました。 さらに、こうした問題を複雑にしているのは、このシネスケが、映画を評価するという「評価」の上に、さらに、コメントreview、つまりそのコメンテーター各々の「評価」を評価する、メタ的な「評価」、という二重の「評価」があるところに端を発しているのではないだろうかと思います。 そして、一番の問題はやはり、コメンテーター各氏の表現方法、ことばの選び方、にあるのではないでしょうか。 今回のかけるさんの『千と千尋の神隠し』におけるreviewについて、個人的な感想を申し上げれば、特に問題はないどころか、実に卓越した批評だと感じました。 表現そのもの、ことばの選び方は、僕にとってはプロヴォーカティヴというか、ある意味＜戦略的＞だな、と感じましたし、そういう意味で、恐らく反発を感じる方もいらっしゃるだろうな、とも感じました。（もし、これが『千と千尋』という映画でなければ、高いポピュラリティーを獲得した映画でなければ、これだけの反発や反応があっただろうか、とも思います。） 「言葉足らず」とご自身は仰ってますが、ことばそのものに、自分の思いや考えをすべて反映し尽くせない不完全性があるのだから、それは仕方のないところだし、ある程度のところまで書けば、あとは読む方に任せねばならない、というのはこういうネットという言語依存世界に参加する以上、ある程度の誤解は不可避だとも思います。すべての人に理解してもらうのは、結局のところ不可能だろうし、そのように書こうとすれば、とんでもなく説明的で面白味のない文章になってしまいます。 また、そういう「言葉足らず」なところがあるからこそ、対話も生れ得るのではないでしょうか。 以前、『バトル・ロワイヤル』でハイタカさんと、『インデペンデンス・デイ』でＧ31さんと、『蝶の舌』でペペロンチーノさんやtomwaitsさんと、一戦交えたというか、それぞれの作品を通じて、お互いの批評について語り合ったことがありますが、それぞれに結果は違っても、僕としては自分のその作品に対しての見方が広がったし、「ああ、なるほど、そういう見方もあるんだ。また機会があったら観直してみたい」と思えたし、そういうきっかけが生まれたのも、裏を返せば、その「言葉足らず」なところにあったと思います。 また、最近では『プライベート･ライアン』の僕のreviewを読んでくださって、その否定ではなく、もう一本観てほしい映画があると教えてくださったくたーさんや、『リリィ・シュシュのすべて』では、「映画自体は気になるけど、好きではないのですね。私は"こうこうこういう"ところに惹かれました」と視点の違いをリスペクトしてくださったinaさんがいらっしゃいました。 そういう、視点は違うけれど、お互いの視点をリスペクトして、かつ、映画に対する自分の思いや考えを磨いていく、そういう喜びを僕は大切にしたいです。 たとえば、大勢で一人のモデルを囲んでデッサンする場合、そのモデルへのまなざしは、各々違うはずです。 ある人は真正面から、ある人は右斜め45度から、ある人は真後ろから、ちょっと変わった人ならば、真下から描く人もいるかもしれません。また、それぞれに座高が違うのですから、たとえ同じ方向から見ても、見え方は当然違ってくるでしょう。また、そのデッサン前に友達と喧嘩してムシャクシャしている人なら、そのモデルに「怒り」を託そうとする人もいるかもしれません。はたまた、そのモデルという表層レベルから、そのモデルの人間としての在り方という深層レベルを抉り出そうと、筆にこめる人もいるでしょう。 そのさまざまな視点やまなざしがあって、そのモデルが、さまざまな作品（たとえば、映画。たとえば、コメントreview）へと昇華され、世界へと＜暴露＞されるのではないでしょうか。そのひとつひとつの束、それこそが「普遍性」だと思います。 また、たとえば、僕が好きな詩人エズラ・パウンドは、ある時期からファシストに傾倒します。だから彼の政治的思想には付いていけないし、嫌悪感すら持っています。それでも僕は、彼の詩が好きです。 でも、パウンドの詩を、彼がファシストだからという理由で批判する方も多いでしょうし、僕はその方々の意見や批評も賛同はしないけれど尊重します。 さらに、たとえば。 僕は、数年前に事故に遭って、しばらく入院していた経験があるのですが、そこである70代後半のＫさんと同部屋になり、仲良くさせていただきました。 一緒に将棋をしたり、毎朝散歩をご一緒させていただいたり、お見舞いの品を分けていただいたり♪。そして、いろんな話もしました。Ｋさんは、戦争に兵士として中国に行かれたので、その体験談も聞かせていただきました。 ただ、一緒に過ごさせていただいた日日の中で、「日本人は一番優秀な民族だ」というように仰ることが時折あり、その発言には到底賛同し得なかったし、不快感を抱いたのですが、どう反応すればいいのか、困ったことがあります。 でも、僕にはＫさんのその発言に対して異議を唱えたり、反発したり、不快感を表明することも、しませんでした。70何年という長い人生の中で培われた、Ｋさんの思いや考えを、人生で一瞬すれ違った僕が、たかだか20何年しか生きていない僕が、全否定することが、どうしてできるでしょうか。 そうでなくとも、その発言を除いては、僕はＫさんが大好きでしたから、そういう考えを持たれ、そういう発言をされるのは、Ｋさんの"一部分ではある"けれども、"一部分でしかない"と捉えることにしました。だから、そういう発言をされる時は、ちょっと困った表情をするだけでした。 退院した今では、年賀状や暑中見舞いのやりとりをさせていただくだけになってしまいましたが、僕の人生の中で、Ｋさんとの出会いは本当に大切な出会いです。 Ｋさんが、僕より先に退院されることになった朝、いつものように一緒に散歩させていただき、お互い朝日が昇るのを座って見ていました。その時、不意に一言、「心配せんとき。アンタはエエ人生送らはるわ。」と仰ってくださったんです。僕は、辛いとき、悲しいとき、もうダメだと思ったとき、Ｋさんのそのことばを思い出しては、「ヨッシャ！メソメソしてられん」と思うのです。 もし、僕が、「日本人が･･･」というひとつの発言にとらわれ拘り、Ｋさんとの関係を絶ってしてしまうようなことがあれば、そんな心の支えになるようなことばに出会えることはなかったと思うのです。 極論を言えば、映画に対して、またはコメントに対して、「評価」するというのは＜善／悪＞でも＜正／誤＞の判断でもなくて、極度に純化すれば＜好／嫌＞もしくは＜快／不快＞の判断における「評価」しかないのではないだろうか、と思うのです。 お互い、生れも育ちも環境も違えば、思いも考えも違います。ならば＜好／嫌＞＜快／不快＞を抱く、作品の「基準」やことばの「基準」も違うはずです。 その「基準」の上に、それぞれの映画作品におけるスタンスやベクトルは無限の可能性があり、またその表出方法も無限の可能性があります。その表出に対して、＜好／嫌＞＜快／不快＞の表明をするということも「アリ」だとは思いますが、そこに＜善／悪＞＜正／誤＞、その在り方を問うのは、いかがなものでしょうか。 その他者否定（もしくは、「否定につながりかねない表明」）は、自らの視点・まなざしへの自己否定に発展しかねないと思うのです。 今回の議論を読ませていただいて、表現方法やことばの選び方にこだわるあまり、そのことばの裏にある＜本質＞の良さを見失う危険性を感じ取った次第です。 かけるさんの宮崎駿監督作品における一連のreviewは、僕としては、このシネスケにとって貴重なひとつの視点・まなざしに他ならないと思います。また、かけるさんが、あれだけ宮崎駿監督作品に否定的ながらも、実際にご覧になられるのには、彼の作品にそれだけの＜力＞があるからこそ、だとも思うのです。内容に対して賛同はできなくとも、そういう映画に対する思いや姿勢には賛同します。 いつものことですが、なんだか、まとまりのない長文になってしまいました。すみません。要は、映画そしてコメントreviewにおける無限の可能性を大切にしていきませんか、「批判」はできても「否定」はできないのではないか、ということです。 | ||