淑さんのコメント: 投票数順
運び屋(2018/米) | 何かが終わってしまった気配は濃厚にある。誰もがこわごわゆく「その後」の地雷原のど真ん中を、当人だけはスタスタ歩いて、しかも一番大切なものはちゃんと最後まで待っていてくれる。ご都合主義? いや、ホラ話なのだ。それがご愛嬌というものなのだ。 [review] | [投票(9)] | |
地獄の黙示録(1979/米) | 鳴り響くワルキューレとともに解き放たれる攻撃本能。見境のない凄惨な暴力。超現実的なまでに壮大な浪費。正気を失ってゆく兵隊たち…。彼らを狂わせたものは何だったのか?― [review] | [投票(9)] | |
グラン・トリノ(2008/米) | ロマン主義に生きロマン主義に死す。元々そんなものが成り立たないことはイーストウッド自身が知っている。それは時代遅れの優雅な遊びなのだ。古臭いものこそが格好いいのだ。 [review] | [投票(7)] | |
ダークナイト(2008/米) | 昔からある話ではある。善と悪の対決であり、『ドン・キホーテ』である。しかしそれをかくも現代的に説得力をもって語るのは簡単ではない。全編に漲る破格の馬力と量感には脱帽だ。 [review] | [投票(7)] | |
ワイルドバンチ(1969/米) | 男らしさに悪酔いしてしまったような連中が、二日酔いの朝、この世の無意味に耐えられず、迎え酒にさらに強い酒をあおるような話。そして、ぶち撒けられる反吐があの壮絶な銃撃戦。 | [投票(7)] | |
タワーリング・インフェルノ(1974/米) | 9.11後の眼からすると甘さはあるが、それでも来るべき世紀の不吉なヴィジョンを先取りしていた。何か悪いことが起きそうだ、という1970年代アメリカ特有の空気感は的中した。ミニチュアのグラスタワーを仰角で映すカットが前衛芸術のごとき不気味さでコワイ。 [review] | [投票(6)] | |
ブラック・クランズマン(2018/米) | 予想していたよりは楽しかったが、しかしどことなく教師の作った映画という印象を受ける。スパイク・リーは若々しく、自分の頭の良さを社会に対してどう用いるかにも自覚的(少しだけゴダールに似ている)だが、それがおもしろい映画を保証するわけでもない。 [review] | [投票(6)] | |
イースタン・プロミス(2007/英=カナダ=米) | クローネンバーグはいつも「内なる異形のもの」を描くが、今回のそれは「ロシア」。暗さ、厳しさ、忍従、それらが故の深い憂愁。黒革の長外套とは、このような男のためにこそある。 | [投票(6)] | |
ブラックブック(2006/オランダ=ベルギー=英=独) | レジスタンスに身を投じたヒロインの前に広がる薄暗闇。ヴァーホーヴェンの映画らしく、これは戦いの物語だ。その敵はナチでも裏切り者でもない。神なきこの世の不条理なのだ― [review] | [投票(6)] | |
イニシェリン島の精霊(2022/英) | 「内面」などというものとは無縁だった男どもが、突然それに直面してうろたえる。「はじめての一年生」のように。その痛々しいまでの武骨ぶり。ギザギザばかりの風景描写も良。ようは『ライアンの娘』の男性版なのだが、結末は正反対。やはり男はバカなのか。 [review] | [投票(5)] | |
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル(2017/米) | 「底辺娘どたばたフィギュア戦記 〜血煙り純情篇〜」。ヤサグレた態度の裏に、痛いほど何かを切望する可憐さが潜んでいる。これを観て、あ、私だ、と思ってハハハと笑った人は結構いたんだろう。なら、アメリカは悪い国ではない。良い国かはしらない。 [review] | [投票(5)] | |
ホワイトハンター ブラックハート(1990/米) | 弱い心の持ち主だからこそイーストウッドは格好いい。躊躇うだけの脆さを持つ者は現実では敗者となる。しかしそこから彼の高貴なるお伽話は始まる。美しき反撃は開始されるのだ。 [review] | [投票(5)] | |
暗黒街の弾痕(1937/米) | 本質的にアナキストであるラングの映画には、善と悪が危険なニアミスを犯す瞬間が必ずある。毒ガス弾の妖しい美しさを見よ!破滅への疾走が放つ生命の輝きを!哀しい自由の歌を! | [投票(5)] | |
チェンジリング(2008/米) | 物語をドライヴさせる馬力には眼を瞠る。イーストウッドの戦いはより容赦無く、より内面的な場所で戦われるようになっている。母親の真っ赤な唇は受難者の流し続ける血の印だろう。 [review] | [投票(5)] | |
娘・妻・母(1960/日) | 成瀬の非情の描写が冴える。日常のあれこれを淡々と写しながら、身の置き所の無い人々の生き辛さを浮かび上がらせる。台詞の端々にチラつく残酷さに唖然、そして痺れた。 [review] | [投票(5)] | |
清作の妻(1965/日) | これが「アダムとイヴ」の話であることは明らか。楽園から追放される二人。そこから始まる新しい歴史。増村は戦後の日本映画において稀有な個性の持ち主だった、と改めて思う― [review] | [投票(5)] | |
東京暮色(1957/日) | 闇に沈む東京の凄惨な美しさ。夜更けの喫茶店の深海のような雰囲気。一本でいいから、小津にチャンドラーやハメットの原作で犯罪映画を撮って欲しかった。傑作になっていたはずだ。 | [投票(5)] | |
「女の小箱」より 夫が見た(1964/日) | 色と欲をめぐってカラフルな男女が闘争するピカレスク映画。と同時に、あるべきモラルを追求する観念ドラマでもある。日本におけるルネサンスこそ、戦後派・増村の主題だった。 | [投票(5)] | |
パットン大戦車軍団(1970/米) | 野人にして詩人、軍事的天才にして政治的痴呆、欧州かぶれの洒落男にしてアメリカの暴言オヤジ、(戦争ではなく)戦場の非情と純粋に魅せられた男の珍道中。じゃなかった、一大叙事詩。 | [投票(5)] | |
ガントレット(1977/米) | 斜に構えない愚直さが素晴らしい。荒っぽい風土を背景に銃弾乱れ飛ぶが、愛と正義をカウボーイのホラ話的語り口で説くかなり純情な話。イーストウッドの潔癖さがよくでている。 | [投票(5)] |