[コメント] 花のれん(1959/日)
また、この冒頭から乙羽信子が女中として出ていて、乙羽は終盤まで出続ける良い役。淡島のだんさんは森繁久彌で、借金を抱えながらも、新町で芸人を引き連れて芸者遊をびする場面で登場する。これが何ともふてぶてしい遊びっぷりで、やっぱり登場するなり場面をさらうが、森繁は前半で退場してしまう。代わりに、この場面の芸人たちの中にいる花菱アチャコが、ラストシーンまで居続ける、よく目立つ役を当てられている。
さて、森繁は株でも大損をし、いよいよ家を手放すしかないと判明した場面。淡島に、こんなときにはもうアレでもするしか、と口説く寝間のやりとりが実に宜しいのだが、この場面で、これまで築いた芸人たちとの関係を元手にして商売をし、再出発するというアイデアが出る。かくして、以降は寄席商いに邁進するプロットとなる。
こゝからは特記すべきと思う場面をあげるけれど、まずは、松竹新喜劇のメンバーが逐次登場するのでそれを記述しよう。最初に書くべきは、既にかなり前に新喜劇を退団していたはずだが、浪花千栄子だ。乙羽が同じ在所(河内)ということで紹介したエラそうな金貸しの婆さん。淡島は肩や腰を揉んでご機嫌を取るが、態度の悪い乙羽に向かってグラスを投げつける浪花。続いて、落語家の松鶴(五代目?)役の曾我廼家明蝶。彼は噺(ネタ)を質入れしてしまい、質出しする(質料を払う)まで高座で喋れなくなるという役。次に、淡島が法善寺の寄席を購入するための交渉相手として曾我廼家五郎八が出て来る。この人のイヤらしさも面白い。そして桂春団治が、ニ代目渋谷天外。アチャコから差押さえの札を口に貼られる春団治の場面で一緒にいる後家さんは酒井光子だ。映画ではめったに見ない酒井が見られて私は感激した。
また、淡島にからむ重要人物として市議役の佐分利信がおり、彼の登場ショットは、上半身が暖簾で隠れた脚だけの画面という特別感のあるものだ。あとは、長じて石浜朗が演じる一人息子の存在があり、寄席商売に対する確執(考え方の違い)も描かれるが、佐分利にしても石浜にしても人物造型は薄っぺらい。さらに、石浜の恋人役で司葉子も最終盤に現れるが、彼女の短髪姿は歌劇団の男役みたいで凛々しくて良いけれど、これもとってつけたような扱いに終わってしまう。
画面造型で特筆すべきは、終盤の大阪空襲の場面だろう。こゝは、さすが東宝特技部の仕事だと感じた。ミニチュアの爆撃機のショットはそうでもないが、通りを逃げ惑う群衆や、画面奥の燃える建物、炎が爆ぜる描写といった画面作りは、とても良く出来ている。空襲後の焼け野原の場面も法善寺という設定で、唐突に司葉子が現れて、いきなり演劇調の演出になってしまうのは難点だと思うけれど、中盤から何度も法善寺に参る淡島を見せていたことが効いて来る。よく指摘されるように、NHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ曲が本作でも流れるのだが、本作中では「法善寺」のテーマとして位置づけられているように感じる。中盤の淡島が参る場面とラストシーンの2回、このメロディが流れる。
#備忘でその他の配役等について記述します。
・寄席の下足番リーダーのような小さな爺さんは大好きな田村楽太。
・寄席商いが順調になって森繁がこしらえた妾は環三千世。森繁は腹上死する。
・寄席の女中頭みたいな万代峯子。その他の使用人に頭師孝雄。立原博の顔も。出雲の安来節一座のリーダーお種は大好きな飯田蝶子。思いの外よく踊る。
・淡島が法善寺で寄席に出て欲しいと頼む落語家の大御所は芦乃家雁玉。
・寄席のまねき看板(出演者名の看板)に花菱アチャコの名前が見える。通天閣を購入した淡島が展望フロアから紙吹雪を巻く場面でタイトルに言及がある。
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