[コメント] 黄昏(1981/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
公開時には、長年確執が伝えられていたフォンダ親娘初の共演作であったこと、また物語的な面からも「親子の和解の映画」という線が強調されていて、実際に父ヘンリーがオスカーを受賞した際も娘のジェーンが代理でステージに立ったりしたものだから(いや、本当にあのスピーチは感動的だった)、どうしてもそういった視点で本作を観てしまっていたところがあったように思う。また再見した今も、そういった視点で観ることもまんざら間違いではないとは思っているのだが、しかしそれ以上に本作の物語としての核が「夫婦の愛」というところに置かれていたのだという気づくと、それからは「親子の和解」以上のまさに心から沸き起こるような感動が全身を包んでいったのである。
物語は老夫婦が熱い夏をゴールデン・ポンドの畔の避暑地の別荘で過ごそうというところから始まるのだが、まずはこの冒頭の数シークエンスで、しのびくる老いに怯えながらも自我を通そうとする頑固者の夫と、しかしそんな彼を誰よりも深く理解し愛している妻というこの老夫婦の関係性や現在の状況が詳らかに示されるところが秀逸である。また、そこに長年交流が途絶えていた娘が、自らの新婚旅行のため結婚相手の連れ子を預けに帰ってくるという、この必要最小限の、けれどどうしても必要な登場人物の配置も巧みとしか言いようがない。このような隙のない練り上げられた脚本を元に前作『ローズ』でブレイクしたマーク・ライデルが、美しくも物語の脇役としての役割をも発揮する自然環境を存分に生かして、いつまでも心に染み入る傑作を作り上げていった。
特に不意の事故で湖に取り残された夫と少年を救おうとして、自らの危険はかえりみず、湖に果敢に飛び込んでいくヘプバーンの姿には涙を禁じ得ない。人というものは、幾つになっても、いや、歳を重ねるからこそ愛する人のためにその身を投げ出すことができるのだということをまさに身をもって示してくれた彼女の演技は、演技という枠を越えて心を捉えるものであったし、強がりながらも彼女にだけは自分の弱さをもさらけ出す父フォンダの受けの演技も、心揺さぶられる素晴らしいものであった。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。