[コメント] ルーヴルの怪人(2001/仏)
見慣れた空間であるところのルーブルに、怪人がもし住んでいたら、という白昼幻想のような着想が大好きだ。
見慣れた空間? 本当にそうだろうか。
考えて見れば、ルーブルとは不思議なトポスだ。なぜにこの土地は膨大なエジプト美術品を蔵しているのか。もちろん、購入なり略奪なりして過去の被支配地から持ち出してきたわけであろう。理由に不明な点はない。その意図に傲慢さと野蛮さはあるかもしれないが。
そのことの是非を今は問わない。今は、結果としてルーブルが第二のエジプトと化してしまったことに不思議な感慨を持たずにいられないのである。地中海をはさんで、エジプトの次に濃密なエジプトが、パリという歴史も文化も全く異なる、きわめて限定的に隔離された飛び地の中で息づいている。イスラームの影響を受けない紀元前エジプトという意味では、歴史からも隔離されているし、ご当地エジプト以上に古代エジプト的とも言える。
美術館があれば間違いなく学芸員や研究者や学生がいる。この土地で、数千年前のエジプトの空気を呼吸しようという営みに日々従事しようとしている人たちがいることの不思議さ。ルーブルの中庭にできたピラミッド風の建築は確か、まだ、建造されて十数年しか経っていない。フランス人は今もなおエジプトの精神に感応し続けている。こうした感応をジェネレートしてしまう美術館というトポスの力とはいったい何なのか。
ルーブルとは、怪人以上に異形な存在である。このことに気づいただけでも成果があった。この映画では、ルーブル美術館公認のもと現地ロケ撮影がされている。映画の出来は極め付けに悪いが、ルーブルのPR映画と思えば、それなりに意図は達成されている。
また、ルーブルに行きたい。そして、エジプトにも。
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