[コメント] 天国の口、終りの楽園。(2001/米=メキシコ)
少年達のひと夏の成長を描いたロードムービー?
なんていう安直な作品だという先入観で鑑賞したら、とんでもない拾い物だった。
豊かさの中で「これから」を模索しようともせずに「現在」を楽しむ少年たち。世界で最も豊かな国アメリカと国境を接しながら、メキシコは未だ発展途上に分類され、貧富の格差に悩むメキシコ。この国もまた「これから」を模索する「少年」なのだろうか。
都市で車に轢かれた出稼ぎ労働者の遺体は4日後に遺族に引き取られ、代々漁師を続けてきた少数部族の男は保護区から退去させられてビルの清掃員として家計を支える。幹線道路では軍や警察の検問が日常と化し、ドラッグも生活の一部になっている。
冷めた口調のナレーションが現代のメキシコの抱える問題点をなぞっていく。このナレーションはさらに個々人の触れられたくない秘密、公にするまでもない秘密までをも露骨にそして冷徹に囁いていく。
資産家の息子には「乳母」までおり、その乳母のことを4歳まで「ママ」と呼んでいたり、友達の家のトイレの蓋を足で上げることだったり・・・・・
ひと夏が終わる頃、女は自立し、自分は死後に誰かの記憶に残るだろうかと自問する。
少年達は当然のように「大人」になり、現実の社会で「これから」を模索しだす。この国でエリートたる彼等がひと夏の旅で捨てざるを得なかったモノ、味わった苦味、これらの多くを過去の思い出として封印する為に彼等は互いに別の道を歩みだす。「もう、逢うこともないだろう」と。
往きの馬鹿騒ぎしながらの3人の旅では目にしたが心に映ることのなかったメキシコの現実。だが帰途の静かな2人の目には何が見えたのだろう。きっと道端に立てられた十字架も心に染みたかもしれない。荒野に真っ直ぐに伸びた道の先は、現実の社会へ続く終着駅だったのか、それとも始発駅だったのか。
この作品、単なる青春モノのレベルでは語れぬモノを秘めている。
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