[コメント] 永遠のマリア・カラス(2002/伊=仏=スペイン=英=ルーマニア)
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劇中、もっとも心打たれたのは、マリア・カラスが夜中に自分の全盛期のレコードをかけながら、それにあわせて、マリア・カラスが唄いながらも、ついに、老いて声を失ったこと、つまり自らの全盛期に及ばないことを、ひざまずいて嘆き悲しむシーンだ。
かつてその声で頂点にたったが故に、カラスには、声を、老いによって失ったことがよりいっそう大きな悲しみとなって押し寄せてくる。ここには、頂点に立つ、ということが持つ、一つの矛盾、悲しみがまざまざと表れている。
そして、マリア・カラスがそこから立ち直ることができたのは、映画でオペラを撮る、という新たな挑戦であったのだろう。オペラには詳しくない私だが、それでも「カルメン」の大雑把な筋ぐらいは知っている。
そして「カルメン」を映画で撮るというのは、明らかに舞台芸術とは違うものへの挑戦だったのだろう。だからこそ、マリア・カラスは新しい挑戦によって生き生きとし、次への挑戦を自らの意思で「トスカ」と定めることができ、さらにその姿勢ゆえに、かえって、昔の声を利用した映画「カルメン」が許せないものとなったのだろう。
オペラの世界で、その声によって頂点に立つ。しかし、頂点に立つということは、ある意味ではそこから、いつの日か降りざるをえない、後退さぜるえないということでもある。その時、人はどうすべきか?
マリア・カラスは、頂点に立ち、そしてその地点が自分からはっきり遠ざかったということを、誰よりも生々しく自覚しながら、新たな芸術、創造に挑戦することで、次の一歩を踏み出せたのではないだろうか。そういう一人のオペラスターの生き様の魅力を、生き生きと伝えてくれた映画であった。
もちろんそういうことだけでなく、脇を固める俳優もよかったし、BGMもよかった。オペラのことは詳しくないが、それでも劇中、「カルメン」の曲が次々と流れ、へぇー、これも「カルメン」か、と思うのも少なくなかった。全体としても非常に質の高い映画で、見てよかったといえる一本だった。
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