[コメント] スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする(2002/仏=カナダ=英)
撮影ピーター・サシツキーとの共同作業にはいよいよ付け入る隙がなくなってきたという感がある。プラットフォームをゆっくりと前進移動する巻頭カットは次作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の横移動のように訴求力に溢れた導入部だ。日中の屋外撮影の美しさも特筆に値する。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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難解さや理解不能性を求める向きにはむしろ不満があるかもしれない。レイフ・ファインズは自身の記憶世界において空間的に遍在しており、彼の記憶が客観的事実とは異なることを端的に示している。記憶(「主観的事実」あるいは「ファインズによっていま作られつつある物語」とでも云ったほうがよいかもしれない)と客観的事実のズレ、それがこの映画の物語のほとんどすべてなのだが、クローネンバーグの丁寧な演出がそこに奥行きと分かりやすさを与えている。また、ファインズの側から見ても客観的事実の側から見ても一定の合理性が求められる振舞いを、ガブリエル・バーンは針に糸を通すような正確さの演技で成功させている。
施設の同居人たちのキャラクタ造型はもっと充実させてくれたほうが個人的には嬉しいのだが、おそらくそれもクローネンバーグの計算のうちだろう。ファインズの関心はもっぱら自身の記憶およびその記憶を刺激するものにしか向いておらず、それ以外のものでしかない同居人は彼にとってほとんど存在していないに等しい。これはどこまでもファインズの主観の映画であるのだから、同居人がきわめて希薄な存在感しか獲得しえていないのはしごく適当である。
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