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[コメント] 狂った一頁(1926/日)

今現在、この手の映像をある程度見慣れた目で見ても、充分面白い、鮮烈な映像表現が連続する。例えばブニュエルやエプスタインよりも早くにこれをやっているというのも凄いと思う。
ゑぎ

 様々な面白さを指摘できると思うが、例えば、円形や球形、曲線、弧線の反復。冒頭の、ダンスする女性のバックにある回転する大きな球。ドラムやラッパ。ボタンとガラス玉。曲がった道の俯瞰。螺旋状の電飾。薬指の指輪。茶碗。壁の下部の黒い丸型。壁の上部には沢山のビス。自動車のタイヤの回転。これってヒッチコックみたいじゃないか。全編に亘って、これら円や曲線と、鉄格子の直線の対照が描かれている映画と云っていいだろう。

 あるいは、太鼓やラッパが行進する「大福引」のお祭りシーンをはじめ、まるで音が聞こえるかのような演出がつけられている部分も興味深い。その極め付きは、倒れている女が床を指で打つショットだ。

 登場人物は、主人公の小使−井上正夫とその妻−中川芳江、娘−飯島綾子の3人だけが明瞭なキャラクターであり、その他、医者や看護師、患者たちや近所の少年たちといった人物も出て来て小使の井上に絡むけれど、大きな役割はない。そもそもプロット展開もほとんど無く、全編が幻想かと見紛うものであり、科白の挿入字幕も一切無いので、あくまでも推測の域を出ないが、娘が結婚をしようとしていることと、それを知った小使が、幽閉されている妻を外に連れ出そうとする、といった部分は幻想ではないと思われる。他の役者では、患者の中に高勢実乗がいることは、はっきりと見留められる。彼を含む男たちが鉄格子に頭を押し付けていて、暴れ始める場面なんかは怖いけれど、少々冗長か。小使が医者と格闘になる場面は幻想シーンだと思うが、かなりの迫力だ。

 技巧的には、ドリーとディゾルブと多重露光の使い倒しという様相を呈しているが、こゝぞというタイミングでの斜め構図やスローモーションの挿入もハッとさせる。それに何よりも、独房の前の暗い通路を映しながら、素早いドリー前進移動、後退移動を繰り出す演出がカッコいい。

(評価:★3)

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