[コメント] ガートルード(1964/デンマーク)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ゲアトルーズと元恋人の詩人との対話の時、最初、二人は長椅子に、一人分の間隔を空けて一緒に座っている。そしてゲアトルーズの、彼との幸福な時間が虚妄だったと知る回想場面は、それまでの純粋な彼女の想いを表すかのように、画面が真っ白な光で輝いている。それから二人は、幅の狭い椅子に移って対話を続けるが、その椅子も、横に置かれた花瓶も、黒。二人の物理的な距離は縮まるものの、却って、一緒に闇の濃さに飲み込まれそうな雰囲気が漂う。詩人は言う、「夜の闇は深く、宇宙は果てしなく大きい」。
話し続ける二人の頭上に掛けられている絵では、二人の男女がこちらに背を向けて佇んでいる。対話する二人の永遠の平行線の関係を暗示しているようだ。詩人は「人は一人では生きられない」と愛の再生を求めるが、ゲアトルーズの視線は虚空を見つめ、詩人は彼女の隣にも座れないままでいる…。
そしてゲアトルーズは、長々と話し込んでいた二人を見つめていた鏡の左右で燃えていた、蝋燭の灯火を消す。二人の心に燃えていた情熱の残り火を、潔く断ち切ろうとするかのように。
…と、こうした何気ない仕草の一つ一つ、交錯する光と闇の微妙な変化が、観ている僕等の心に、静かに錘を下ろすような、重い感触を残していく。
映画の最後、ゲアトルーズが自分の墓に植えてほしいと言うアネモネの花は、西洋では美の儚さの象徴、キリスト教的には、イエスの受難とマリアの哀しみ、しかしまた、‘復活祭の花’とも呼ばれているようだ。「アネモネは愛の言葉。心で思っても、決して口には出せなかった愛の言葉」。達観したようにして男たちに背を向けて行った彼女もやはり、心の底では、愛の甦りを求めていたのだろうか。
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