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[コメント] ジャズ大名(1986/日)

泣いた。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







劇場体験、場末の三本立ての最期。ラスト、虚無僧らが出てくるあたりで感極まって思わず泣いちまった。周りの親父さんたちに疑惑の目で見られた。

本作は僕が始めて観た、今では世界最高と信じる、岡本喜八監督作品。ビデオで観た直後に5点を付けた後、劇場で喜八諸作品を体験してから一度4点に下げコメントも削除していた。

だけど。

僕は気付いた。これは紛れも無い喜八映画だ。というかこれは喜八が撮ったからこそ意味がある映画だ。

彼は、第二次大戦の終結を政治的側面に絞って描いた『日本のいちばん長い日』の不足部分を補うため一突撃兵を主役とした『肉弾』を作ったが(*1)、この『ジャズ大名』も同じく幕末の動乱を捉えた『赤毛』(*2)の不足を補って余りある作品であるからだ。

赤毛』は理想のぶつかりあい。理想と理想のぶつかりあい。その理想を「古いよ、臭いよ、とにかくおいで」と切って捨てる本作のアナーキーぶりって…何!?喜八監督の思考の柔軟さ、寛容さっていったい!? 

それにあの城内の演出!特に襖のシーンに代表されるリズム感が心地いいったらありゃしない!古谷一行と唐十郎の絡みもどっかの馬鹿殿サマより断然笑えるし。うーん、喜八節!

んで音楽。これは原作と音楽を担当した筒井康隆氏の造詣によるものなんだけど。

本作はジャズ発祥の地ニューオリンズから始まる。主題曲は「30数年後にメイプルリーフ・ラグとなる予定の曲」であるが「メイプルリーフ〜」の作曲者スコット・ジョップリン(*3)はセントルイスの人。葬送曲として起源を匂わすマイナー調のメロディがどういう経緯を経て30云年後の楽しげなメジャー調になっていったのか、それがどうやってビバップの狂熱へと繋がっていくか、リズムはどうかということが、一見荒唐無稽な話の中で、意外な程精密に描かれている。嘘だとしてもハッタリが効いている。

ラスト近くで玩具のピアノを弾く馬鹿テクのおっさんが山下洋輔さんなのかどうかは顔も手癖も知らないから断定出来ないが、あれも最高だった。

もうとにかく最高だ。最高。最高。最高。軌跡的としかいえない最高の映画だ、これは!

(*1)…アイルランドのニール・ジョーダン監督の『マイケル・コリンズ』→『ブッチャー・ボーイ』の流れと同様です。

(*2)…ラスト近くで実際に赤報隊が登場!そ、そりゃぁ興奮したさ!

(*3)…『スティング』で取り上げらた「ジ・エンターテナー」でも有名なラグタイム・ミュージック(*4)の大成者にして代表的ピアニスト、作曲家(*5)。

(*4)…ラグタイムの名の通り「音間を気分次第で」聞かせるダンス音楽。クラシックとジャズ(大衆音楽)の中間に存在する音楽形態。軽快かつ流麗なメロディが受け’30年代に大流行。

(*5)…S・ジョプリンが活躍した19世紀末はまだ録音技術が未発達。音楽家や楽曲の人気は楽譜の発行部数によって測られた。余談だがこういう楽譜は出版社所属の実演販売員(ソング・プラッカーと呼ばれる)によって一般家庭に売り込まれた。有名なアービング・バーリンジョージ・ガーシュインなどもソング・プラッカー出身の作曲家である。

(評価:★5)

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