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[コメント] 小さな中国のお針子(2002/仏=中国)

一言で言えばオリエンタリズムの映画。此岸(現在・西洋)から彼岸(過去・東洋)を眺めやる視線の映画。そこには願望の投影された美しさはあっても、勿論のこと、切実な希望や絶望の呻きはない。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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一言で言えばオリエンタリズムの映画だと思う。それは此岸(現在・西洋)から彼岸(過去・東洋)を眺めやる視線の映画だと思う。大体タイトルからして「小さな」という前置きがついている。敢えて言えば、「小さな」という前置きは、現実には「大きな」中国を矮小化する言葉ではないだろうか。勿論のことそれは表向きには可愛らしさのイメージで用いられているのだろうし、「大きな」中国を敢えて「小さな」ものとして語ることでその落差を一種の面白みとして示したタイトルなのかもしれないが、その裏にはやはり「大きな」中国を矮小化する無意識の働きも含まれてはいないだろうか。そこには無意識のうちに、「大きな」男性的西欧に対する「小さな」女性的中国という構図が含まれてはいないだろうか。

そして面白いのは、これが中国出身の作家により著された物語であることだ。中国出身の作家が祖国から離れて年月を重ね、そして再び祖国に注ぐ視線がオリエンタリズムの視線になるとはどういうことなのか。そこには、かつて“小さかった”自分達が西欧に渡って自分達のうちに西欧を育むことで“大きく”なり、そしてかつて“小さかった”自分達を省みるという構図が裏書されてはいないだろうか。そしてそこからは、土着の中国の姿、その現在の姿は抹消されてしまっている。映画中のヒロインの現在の姿がそこで描かれていないのは、だから故のないことではない。それは恐らく象徴的な意味でも行方知れずなのだ。来し方ばかりがあって、けれど行く末の見えないこの一種の寓話的な青春の物語は、あるいは図らずして、西欧的中国と土着的中国の分裂した現在の中国の姿を象徴的に表してしまっているのかもしれない。

(評価:★3)

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