[コメント] 日本脱出(1964/日)
ステージのシーンが繋がれて、鈴木が口パクだったと分かる。マスターと呼ばれる春日俊二はマネージャーか。バンドメンバーは旅に出て、一人、留守番をする鈴木。オフでドラムの音。待田京介の登場だ。この登場シーンは、めっちゃカッコいい。
次に、鈴木は待田と彼の女らしい桑野みゆきを車に乗せて自分のアパートへ。2人に部屋を貸し、鈴木は車の中で待つ。こゝに、隣人の市原悦子が絡むのだが、市原はこゝだけの出番。桑野は新宿のトルコ風呂で働いている、という科白がある。続いて唐突にプールのシーンで、内田良平が登場。ふざけて鈴木を水の中に沈めることを繰り返す。もうイジメやん、と思ってしまう。そして、いきなり、トルコ風呂の金庫から現金を強奪する犯行場面になるのだ。このあたりの繋ぎは良いと思う。
待田、内田、桑野、鈴木の4人が実行犯。初めは、待田がボスなのだろうと思ったのだが、彼はヤクが切れると使いものにならなくなる設定で、登場シーンのカッコ良さはどこへやらという感じになる。しかし、この犯行場面あたりから、やたらとズームインを使うのには辟易した。私が見た(そんなに沢山見ているわけではありませんが)成島東一郎の撮影作品の中で、こんなにズームを使う映画は初めてだ(そう考えると、やっぱり吉田喜重の指示なのだろう)。ただし、非常階段の上から地上を見る桑野の仰角ズームインと、地上で車の側から上を見る鈴木の俯瞰ズームインの連打はなかなかいいと思った。また、鈴木が運転する車で逃走した直後、巡査が出てきてフロントガラスにしがみつく場面での、鈴木の狼狽して運転するさまにはドキドキさせられた。内田が巡査を撃って、彼らは殺人犯になる。
そして彼らが逃げ込んだのは、非開催日の競輪場地下、選手控え室か。こゝをアジトにできたのは内田のおかげのようなので、やっぱり内田がボスだったのだろう。もうこの場面からは、完全にカオス状態になる。梗概めいたことは割愛するが、この後、場面は横浜から厚木基地近郊、東京オリンピックの聖火ランナー中継車を経由して、どこかの港(多分、横浜港だろう)で収束する。これらは、鈴木が、タイトルにある「日本脱出」を謀る、というか、いつしか桑野が鈴木を日本脱出させたいと強く願い、ヘタレな鈴木を引っ張っていく顛末と云ってもいいだろう。実は、ズームインにもイライラさせられたが、鈴木と桑野の2人とも、泣き叫ぶシーンが多く、さらにイライラさせられた。ただし、鈴木が最初から最後まで情けない男として見苦しいのに比べ、桑野は途中から、落ち着いて肝が座って来るところが上手く表現されている。あと、ラストの宙ぶらりん感は、私はこのエンディングで良かったと思う。この後、鈴木が刑務所で発狂するというシーンも撮られたらしいが、鈴木の発狂演技を見ずに済んで良かったという感覚だ。もしかしたら、映画の印象が一変するような凄い演出がつけられていたのかも知れないが。
#備忘でその他の配役等について記述します。
・横浜のバーで、桑野に声をかけ、米兵を斡旋すると請け合う男は早野寿郎。ホテルの女将は岸輝子。早野と一緒にホテルに現れたヤクザの一人は垂水悟郎。
・桑野の昔の友人で、厚木基地に近い場所に住むオンリーさん、坂本スミ子。厚木基地に入るために乗ったトラックには北朝鮮への密航者、中野誠也がいる。
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