[コメント] 女ばかりの夜(1961/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
売春防止法施行でコールガール化した売春婦たちの更生施設として、全国65か所の婦人保護施設が準備されたと冒頭に説明がある。婦人会のおばさんたちに寮長の淡島千景と沢村貞子が説明する導入。彼女らの知能指数は一般に低い(当時らしい説明だ)、性病持ちは仕事を分けている云々。
原は社会復帰を目指して商店住込みと工場、バラ園と勤めてまわる。いくつも考えさせられる断片がある。淡島の寮長はどうやら勤め先に、彼女が元売春婦ということを隠しているようだ。職安でもこの情報は公開されていないように取れる。商店では出自がどこからともなくバレて、店員から「よく更生したね」と褒められて原を怒らせてしまう件があった。この心理はよく判る気がする。頑張っているが頑張っていると云われるのが嫌なのだ。それで次の工場の寮では早々に自分から宣誓して、しかしそれで女工たちの援助交際みたいな変な付き合いに巻き込まれてしまう。夜の野原、土管に胡坐かく原がとても痛々しい。
法律がかわったから駄目なのだと説明する淡島に原は「本当に悪いってどういうこと?」と尋ねる。同じ問いは施設の女からも出る。次の職場のバラ園勧められる際の、あなたは人間相手でないほうが向いている、という科白が深い。ここで出会って求婚した夏木陽介が田舎に戻って、親からの手紙が届く。落ちぶれたとはいえ士族の家柄、娼婦とは結婚できないと断られる。このとき間に入った平田昭彦と香川京子の夫婦の言い分は、田舎は難しい、諦めろと婉曲に云うのがとてもリアルだった。民主主義はこのとき二歩後退している。最後は原は海女になっているが、刑務所から出てきた男から逃げているに違いない。纏めようとしない原作もののリアルがあった。
性病と云われるがどのような進行状況なのか、三つ編みで59歳の浪花はインパクトがあり、好きな同僚生の布団に入り、独房でこっくりさん。入寮した春川と夢の対決があり、最後は逃亡した同僚を追おうとして死んでしまう。彼女の死に対して映画は、追悼などの何のコメントもしない。もう何も云えない、という反応のように見える。それはそうだろうと思わされる。
無理解な周囲への皮肉は容赦ない。桂小金治と中北千枝子の夫婦のコメディが素晴らしくいい。中北のイジメのようなこき使い(昔の洗濯とか風呂焚きとか、忙しいものだ)に厭になって辞めるつもりの原。実家で一泊の中北の亭主に手出さないでよの一言にカチンときて、パーマかけて戻って亭主を誘惑。翌朝なかなか布団から出ない原、中北は帰る小僧たちは出勤する、真っ青の桂というもの凄い盛り上がりを見せる。ここまで面白いコメディはそうないだろう。最後は階段から降りてくる中北怒りのどアップだった。
寮の食堂で酒出せと云う春川、水を差しだした千石規子の目線の対決、このコメディも素晴らしい。こういう演出を田中絹代がしている図というのはどんなだっただろう。原作もの。田中絹代は更生施設を訪問して準備した由。
「上映トラブル、中断の可能性があります」と上映前にアナウンスがあり、映画はピンボケと細かいビビりが続いたが見事無事終演。映写技師はもてるテクを使いまくったのだろう。フィルム修復を願いたい。
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