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[コメント] キートンのカメラマン(1928/米)

涙なしには決して見ることのできぬ、あまりにも美しい愛の物語。「MGM移籍後で唯一の佳作」などと評されるこの映画でさえ、ギャグの爆発力と精度は目も当てられない減衰ぶりを示している。ゆえにこそ、私は今いちどこれを愛の物語として受け止めたい。キートンは愛の物語を語り続けた作家でもあった。
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バスター・キートンが男女間の恋愛を題材に取り上げる頻度は、「ギャグを生産するのに好適な状況だから」あるいは「興行上の要請」という理解だけでは捉えきれないほどに高い。マーセリン・デイという類稀なる女優を得て、『キートンのカメラマン』はキートン的恋愛を最も美しく画面に結晶化してみせている。

MGMにおける第一回作品であるとともにキートン組の最終作でもあるこの映画はまた、ややもするとエルジン・レスリーの最良作でさえある。前作までと比して格段に可動性を増したカメラは、その移動のひとつびとつをまったく的確に決めている。ダブルデッカー・バスやキートンの下宿における上下移動などもむろんその例に洩れないが、とりわけ銘記しておかねばならないのはキートンがデイとの電話を終えぬうちに走り出すシーンだ。そこで街を駆け抜ける彼を右から左へと追った簡潔なパンニングは、その疾走をキートンの作品暦上でも最もエモーショナルなそれに仕立て上げている。そしてラストカットはどうだ。無数の白の紙吹雪が舞い降る街路。この祝祭の空間を渇いた瞳のままで見ることは私にとって不可能事である。

猿の活躍の驚異、チャイニーズ・タウンにおける市街銃撃戦演出の高度な達成ももちろん忘れることができない。街角の警官(ハリー・グリボン)が初めて人格を備えた一個人として扱われているというのも特筆すべき事柄だろう。呆れ顔を作りながらもキートンに「見守り」の視線を送る、この少しばかりアーネスト・ボーグナインにも似た彼が、映画のもたらす通俗的な感動に貢献した面を過小評価してはならない。

キートンのカメラマン』は全盛期のキートン作に決して劣らぬ感動的な映画である。しかし、それとこれでは感動の実質が異なるのではないか――確かにその通りだろう。それでも私は私の感動を裏切れない。『キートンのカメラマン』は全盛期のキートン作に決して劣らぬ感動的な傑作である。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)寒山拾得[*] ナッシュ13[*]

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