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[コメント] その人は昔(1967/日)

冒頭の本邦歌謡史上名高い「白馬のルンナ」が見処と思いきや本編もいい。ロマンチックな歌謡映画と羽仁進系セミドキュメントと松山労働リアリズムのごた混ぜが絶妙な按配で成立していて珍味。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最初の舟木一夫のタイトルソングで内藤洋子は最後はどこかへいなくなるのが予告されている。このワカメ漁の件はとてもいい撮影だが、ここで内藤は舟木の視線に全く気がつかない。この導入がとてもいい。内藤が舟木の方を振り向く時間は最初から限られていたのだった。なんとロマンチックなことか。

話は内藤の失恋の件が紋切型でダレるのが惜しいし、舟木の幾つかの歌はトロ臭くでいけないが、他は良好。寓話タッチが大いに利用されている。元は舟木の物語付きLP(当時はよくありました。松山善三は原作なのだからLP制作にもタッチしていたのだろう)だが実に辛口。「東京の海はヘドロの沼」「東京の人は人間じゃない」なる内藤のストレートな言葉などいかにも60年代。今はそんな本当のこと、当たり前すぎて誰も云わない。

東京映画の知らない俳優さんばかりだが気にならない。松山印の聾唖者大木徹三が印象に残る。あの線路際の下宿がいい。人の良い舟木の造形もいいし、渋谷で迷子になる件もいいし、内藤のピンクの傘もいい。ラストは混沌とするがこれもいい。死んでなお白馬で舟木を追う内藤とは、舟木にとって何なんだろうか。

(評価:★4)

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