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[コメント] ラスティ・メン(1952/米)

ロバート・ミッチャムは本当に天才的な役者だと思い知る。私は実に意地の悪い観客で、ロデオ・シーンのスタンドイン(代役)のカットの違和感を、あら探しのように注視していたのだが...
ゑぎ

 映画が終わってみると、ミッチャム本人のシーンとロデオ・シーンのルックの統一こそ、奇跡的な演出技量であり、撮影技量であることを痛感する。これぞリー・ガームスの神業! 殆どシナリオ無しで撮られた映画だとは決して思えない完成度の高さ。やっぱり映画はシナリオではなく、演技・演出と撮影こそ最も重要。

 《2022年3月に再見したので下に追記します》

 上の記述は、1988年10月に大阪南森町のプラネット上映室という場所で、字幕無し版を見た際の感想メモです。多分、科白は勿論、プロット展開にも、ほとんどついていけていなかったのだと思いますが、今回、字幕付き版をスクリーンで再見したので、備忘的な部分含めて書き足します。

 クレジットは、ミッチャムよりヘイワードの方が先に出る。開巻のロデオシーンで、ミッチャムは、牛(馬?)にまたがろうとしている柵上のカットで登場。この後の、誰もいないロデオ会場に沢山の新聞紙が風に舞う中、ミッチャムが歩いてくるカットが、まず素晴らしい。もうこの時点で既に大傑作の予感を漂わせるのだ。

 続く生まれた家に戻ってきた男、というシーンもいい。家の床下に子供の頃隠したお金や玩具の拳銃がある。そして、アーサー・ケネディスーザン・ヘイワードの夫婦の登場。誘われて牧場へ向かう場面の丘の連なる風景。ミッチャムは牧場で働きながら、ケネディのロデオ出場の夢を支援するようになる。

 そして、ツーソンのロデオ会場に朝到着するシーン。こゝから、ロデオ仲間や、その妻たちがどんどん絡んできて、加速度的に面白くなる。車の中で横になって寝ているヘイワードを見る男2人。ニコラス・レイらしい横臥の演出だ。ミッチャムの昔馴染みでは、アーサー・ハニカットと娘のラスティがいい。ハニカットは右足に凄い怪我の痕があり、世界一骨折した男と云う。彼のジョークというか、ほら話が楽しい。ハニカットのキャラについてもう少し書いておくと、最初のパーティシーンで、沢山の女性たちに囲まれていて驚いたが(話が面白いから、ということだと推測するが)、もう一つ別のパーティシーンでも、彼は床に寝転んでいて、女性の脚越しのカットがあり(バックシームの入ったストッキングの脚を見ながら会話している)、こゝでも、女性にモテている、という描写なのだ。

 全体に会話シーンでは、2人の人物の縦構図ディープフォーカスが多い。手前にミッチャム、奥にケネディとか。極めつけは、パーティ会場の外の廊下で、ヘイワードを挟んでミッチャムとケネディが対峙するシーンだろう。ミッチャムの奥にヘイワードのカットと、ケネディの奥にヘイワード、というそれぞれディープフォーカスのカットを繋ぐのだ。この繋ぎには昂奮する。

 もちろん、こゝぞという場面での切り返し(リバース・ショット)も冴えわたっていて、ミッチャムがヘイワードに告白するシーンでの、二人のアップの切り返しには胸が熱くなるし、そしてこれも極めつけは、ラスト近くの、ロデオのシーケンスの中での、ミッチャムとケネディの切り返しだろう。ケネディが微笑み、ミッチャムが左目でウィンクする。もうこゝから、私は涙が溢れて上映が終わっても、すすり泣きをしながら映画館をあとにすることになってしまった。昔見た時のメモ(一番上の記述)で、「ロバート・ミッチャムは本当に天才的な役者だと思い知る」と書いていたのは、このウィンクのカットをかなり意識していたのだろうと思う。

(評価:★5)

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