[コメント] 情婦(1957/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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『お熱いのがお好き』の鑑賞から感覚15分程(その間にカウントダウン)で鑑賞。正直、『お熱いのがお好き』が予想外に素晴らしすぎたので、どうしても比較してしまう。素直に面白い、と思えるのに★5を付け難い。でも、これもまた『お熱い〜』同様トンでもない映画だ。面白い!
法廷サスペンスモノ。しかし主人公はデブで病気なので頭に血が上らない様な裁判しか出来ないような御老体のじーさん。事務所では階段昇降機で茶目っ気たっぷりに遊んでみたり、「看護婦に見付かるから」とか言いながら葉巻の灰を窓から捨ててみたり、裁判中に薬を並べてみたり、と茶目っ気たっぷり(この薬の”整列”には伏線があるのかと思ってたけど、ただの思わせぶりなのね・・・)。
このコメディとシリアスのギリギリを行き来する演出&脚本の素晴らしさ。これまた時間を感じさせないテンポの良さ。「クスクス」と笑いをとるユーモアを連発しながらギリギリの一線でシリアス路線に戻し、再び観客の肩の力を抜かせる為にコメディをする、その巧みな職人芸と、絶妙な間合いがたまらなく可笑しい。
だから場内には爆笑はこだましない。時折大きな声の笑いは出てくるがそれは個人差ってもんだろ(違う?)。
随所に光るセンス。シリアスの中に可笑しい掛け合いを入れる事でぐいぐいと引き寄せるこの見事な演出には平伏すしかない。登場人物全てが魅力的でミステリアス。スクリーンに釘付けでした。
あのデブのじーさんが法廷で形勢逆転させる度に思わず「上手い!」と声を上げてしまいそうになるこの巧みな脚本!
そしてラストのどんでん返し。2重のどんでん返しも大体読めてはいたが、読めているからこそにやりとさせられる。驚きよりも「やっぱこうじゃないとねぇ」とニヤニヤしてしまうこの嬉しさ。口うるさい看護婦が一転して「さ、次の仕事が・・」みたいな感じで裏切られた女性の弁護をせかす辺り、完璧に観客を味方につけたまま作品は「The end」を向かえ、これまたエンドロールなしに場内は明るくなる。
俺が望む方向に進んだラストシーンにニヤニヤしている状態で明るくなる素晴らしさ。だからこの映画の余韻が素晴らしいのだと思う。
とにかくまたしてもワイルダーにやられた!
◇
この映画のどんでん返しは「伏線による面白さ」では無い。伏線を上手く作るのも確かに技術として凄い事だと思うが、この作品は「人間ドラマ」を軸にしているからこそ有り得るどんでん返し。だからこそ無情な(裏切られた女性の)切なさと、(観客の彼女に対する同情による)「看護婦の絶妙なタイミングでの発言」というハッピーエンドが成し得る。
この映画のどんでん返しは観客を驚かす為のものではない。だから読めていても楽しめるのだと思う。サスペンスにおいて大切なのは話の流れやトリックではなく、人間ドラマなんですなぁ・・・としみじみ。
果たしてこれをこえる”どんでん返し系サスペンス”は出てくるのだろうか?
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