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[コメント] 10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス(2002/英=独)

これをiPodに入れておいて昼休みに1本ずつ見返してみる、なんてことができれば愉しいだろうなと、いつものひとりランチタイム(デスク前でそのままネットを眺めつつお弁当を食べ、その後は音楽を聴きながら読書…)を終え仕事に移る瞬間ふと思ったしだいです。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







■カウリスマキの「結婚は10分で決める」はどこまでもいつも通りのテイスト。★★★★。

情熱を胸の内でギラギラたぎらせながらも表面にはいっさいそれを出さないというか、言葉少なに無愛想に、でも実はかなり思い切ったことを言ったりやったりしてますよ彼らは!みたいな。まさにハードボイルドだなぁと少しだけ『真夜中の虹』のことを思い出し、ラスト、心の中でふと「虹の彼方に」が鳴った。

また、ふたりの愛の語らいなどにはまったく時間を割かないくせに、たとえば汽車に乗るまでのチケット購入過程(お金を出し入れする穴のような箇所が日本ではありえなくておもしろかった)とか、汽車が走りだすところ(扉はこんなふうな仕組みになっているのかと感心した)とか、汽車の車輪が動く様などにはしっかり時間をとって見せてくれるところがいかにもカウリスマキだと思った。『マッチ工場の少女』などは特にそれが際だっているように思えたのだが、彼の映画はそういった「監督自身も興味深く思ったのだろうな」といった「モノの動きなど」が決して仰々しい見せ場としてではなく、ごく自然な観察者の視点でまぎれ込んでくるところがあってワクワクする。

それ以外ではオウティネンの後ろ姿、真っ赤なコートと子どもっぽい靴下、が印象的だった。あのエスカレーターのシーンだけでも、彼女のことがいろいろわかったような気になってしまうのはなぜなのだろう。

■エリセの「ライフライン」はひたすら素晴らしかった。★★★★★。

静かで美しかったり牧歌的なふうでもあるのだけれど、それでもどことなく生理的にせまってくる場面があったり政治的・宗教的な含みを感じる場面もあったりして、また、人の動きが生みだすリズムや出てくる人々の顔相自体にただようおかしさや生々しさ不気味さもあって、ブニュエルのことを思わずにはいられなかった。エリセの作品を見てブニュエルのことを思うなんてどう考えてもおかしいよ!スペインの監督ということ以外は作風だってまったく違うじゃないか!と何度も自分にツッコミつつ、それでもそう思わずにはいられなかった。だからこれはもう「共通項が何かしらあったのだ」と自分の中では認めてもよいような気がするし認めたい。と思う。

ともあれ、それぞれが費やしていた極めて個人的な時間がある事件をきっかけに一気に収束し、そしてまたばらばらになっていく。という、考えようによっては「当たり前のことじゃんか!」で終わってしまう話をここまでドキドキする「映画」にしてしまうのだから、エリセの天才ぶりもたいしたものだ。

だいたいこの「事件」だって、あっけなく解決してしまったということや新聞などから予測されるこの先のもっと困難な時代を思えば、この場に立ち会った人々(もちろん一部の重要人物をのぞく)にとってもさほど重大なこととして記憶に残りはしない気がする。それでもその事件の前後に確実に「時」は存在していたし、これからもそれは続いてゆく。とても大きな時のうねりの中でのちっぽけな、けれど大切な日常。長い恒久的にさえ思えてくるような歴史の中で、あくまでも連続的に生き続ける人々。

自分もこの時というものに連なっているのだということを最も意識させられたのは、この作品だったのではないかと思う。

■ヘルツォークの「失われた一万年」は単純におもしろかった。★★★★。

(たぶんマジで撮っているのだろう)ヘルツォークにはひじょうに申し訳ないが、途中で「これはやらせなのか?」とさえ思い、ちょっと笑ってしまった。あまりにむなしくて、でもとても想像通りの展開で、もうギャグとしか思えなかった。

また些細なことだが、「彼は言葉もポルトガル語を好む」な若者をあいだに立てればそれで通訳はどうにかなるんじゃないのか、と少し思った。わざわざ連れて来られていた「彼らの言葉を解す唯一の白人(だっけ?)」の立ち位置がちょっと謎で、でも、まー、ヘルツォークだしな。と、そんな感じで。

■ジャームッシュの「女優のブレイクタイム」は上手かった。★★★★。

10分という時間が、忙しい現代(あるいは忙しい場所や人)においてはどれほど中途半端な長さなのか、ということがとてもよくわかった。

靴は脱がないでと言われたのにさっさと裸足になり「禁煙」とあるのに煙草を吸い、そして、たったそれっぽっちの時間で口にすることなどできなくて当然ではないか、な食事にその燃えさしを突き立て出て行く女。彼女なりに静かな音楽をかけてみたりしてリラックスしようとしているのが、いっそう切ないというか苦笑させられるというか。携帯にかかってきた私用電話での会話も「トラブル発生中!トラブル発生中!」といった感じだし、撮影中の映画は(衣装から想像するに)どうやら日常的な作品ではないようで気持ちの切り替えも大変そうだし。ストレスが募ってゆく様が手にとるようにわかるのがおかしい。

出入りするスタッフたちが多人種で、また、誰もが「彼女」を即物的に事務的に扱うというのもおもしろく、ジャームッシュってこういうの上手だよなぁ。とあらためて思った。小咄的というか、こういったおもしろスケッチ的なものが彼は抜群に巧いと思う。

ところで最後、燃えさしが完全に消えていないように見えて気になったのだが(来たるべき次のドラマを想像してしまったのだが)、これは考え過ぎなのだろうか。

■ヴェンダースの「トローナからの12マイル」はひどくつまらなかった。★★。

特にラストのつまらないオチ。と、それを更につまらなくしている変な引きのカットに萎えた。まるで低予算の自主制作映画みたいだ。

ヴェンダースって作品によって「素晴らしい!」と「なんじゃこりゃ?」の差が激しすぎる気がする…。この映画を撮ったひととあの大傑作『さすらい』や『都会のアリス』を撮った人が同一人物だなんて、そう簡単には信じられない。そもそも彼にカラーフィルムを与えるのはやめようよ!なんとか言いくるめて今後はモノクロのみで撮ってもらおうよ!とさえ真剣に思う。

■スパイク・リーの「ゴアvsブッシュ」はジャームッシュのものとは逆に、「たった10分」という時間が場合によっては「どれほど長い(内容のつまった、大きな決定に関わる)10分」になりえるのか。という感じで、テーマとしてはそれなりにおもしろかった。★★★。

単に、これらの映画の「並び順」を考えた人こそが偉かっただけなのかもしれないけど。

ともあれ、たとえその発想というか「この手のネタでいこう!」というのが興味深かったとしても、ひたすらインタビュー証言ばかり畳みかけられるのは少々つらい。てゆーか、間違ってる。なぜならそこに映画としての興奮はあまりなく、ニュース番組の「今日の特集です」といった類のコーナーを見せられているに等しい感覚を抱いてしまうからだ。そのスピーディーな証言つなぎによって映画自体をもリズミカルにしようとしたのかもしれないが、残念ながら私には心地よくついていくことができなかった。

■チェン・カイコーの「夢幻百花」は小賢しいぐらい巧みにいろんな「おいしそうな要素」を投げ入れてまとめてあるのだが、それだけデジャヴ感も強くなってしまっていた。どこかで見ただろ、聞いただろ。みたいな話。日常的な話ならばそれでもいっこうにかまわないのだが、こういった奇譚的なものでそれはきつい。★★★。

せめてそんなことがどうでもよくなるぐらい美しい映像や素晴らしい演技や演出で見せてもらえればよかったのだが、いかんせんすべてが平易だった。いや、CGは平易どころかひどかった。正直やや悲しくさえなった。別に実際に見せてくれなくてもよかったのだが。

この監督も自分の中では『黄色い大地』ばかりがピカピカに輝いている、とっくに過去のひと、であったりする。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)緑雨[*] ペペロンチーノ[*]

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