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[コメント] 10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス(2002/英=独)

息苦しいほどの濃密さ、豊穣さ・・・これはもうエリセ監督に捧げる5点。懐中時計のように懐でそっと温め、時々取り出しては何度も何度も反芻したくなるような、この上なくいとおしい「掌のフィルム」。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







何という濃密な10分なんだろう。沈黙ゆえの饒舌さとでも言えばいいのか、必要最小限の音しか存在しない静謐さの中で、目の前の映像のみが語りかけてくる。「映画」の中から不純物を取り除いた結晶体があるとすれば、それはおそらくこういうものではないかとさえ思う。

寝息、草刈り、裁縫、縄縒り、ブランコから投げ出された足・・・些細な日常の営み。ひそやかな、ゆるやかな、緩慢な、力強い、それぞれの反復運動が、それぞれの体内時計が、それぞれの時間を刻む。少年の腕時計に耳を澄ませ聞こえるのは、それぞれの振子が刻むアンサンブル、そして生のひそやかな呼吸、鼓動のリズム。この映画によこたわる「死」を語るには、まだ言葉足らずな理解しかできてはいないけれど、とりあえずこの映像の語りだけでも、個人的には文句なく5点です。

皮膜一枚の危うい生。見えないもの、聞こえないものを感じる力。エリセ監督の子供に関する独特な描写も見受けられる。さまざまな「時」に祝福された小さな命。「わたしたちを置いていかないでおくれ」というセリフに胸が締め付けられる。

<その他>

アキ・カウリスマキ:長編でも短編でも全くスタンス変わりなし。もともと描写の省略が多いので、結構こういうの得意そうな気が。

ヴェルナー・ヘルツォーク:個人的には今回の中でも、一番映画から遠いもののような気がした。興味深い題材や素材に寄りかかり過ぎで、かえってありきたりになっている。急激な変化をもたらした10分というのはわかるけど、それを絵で体感させてくれない。というか、あまりに芸のないナレーションがこちらの想像を阻害してると思う。

ジム・ジャームッシュ:これは結構面白かった。取るに足りないけど、細かく面白い。

ヴィム・ヴェンダース:中途半端。幻覚を通した映像表現が狙いなのだろうか。でもそれなら、こんな中途半端に物語っぽいものを入れなきゃいいのに。

スパイク・リー:これはなかなか好き。編集の畳み掛けのリズムでエキサイティングな10分を体感させるような。やや一本調子な気もするけど。

チェン・カイコー:現代の寓話。彼らが受け取るはずで拒んだお金。それで彼らは何かを買った気分になったのかな。途中に出てくる扉の窓枠の向こうの風景が、絵本の一ページを切り取ったみたいで、面白かったです。

(2004/11/22)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ころ阿弥[*]

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