[コメント] 9000マイルの約束(2001/独)
2時間40分の大作映画で、脱走モノ。でも、他の映画とは断じて違う。似ている名前で同じ脱走モノには『裸足の1500マイル』と言う映画がある。映画としてのクオリティは確かにあちらが上だ。この『9000マイルの約束』は、映画としての質は大した事が無く、2時間40分の間、飽きずに見れた事が不思議な程の演出が中途半端で、音楽は時代遅れ感覚丸出しの盛り上げ方をする作品だ。
脚本も、どこまで脚色したのか分らないが、説明不足で、あのソ連の中尉はなぜあそこまで執念深く主人公を追い詰める必要があったのか疑問であるし、主人公を助けた登場人物がことごとく、危険な状況になれば自殺や病死(事故死?)で死んでいく様子はご都合主義が極まったとしか思えない。
しかし、この映画を支えているのは、オールロケを敢行して撮影した圧倒的な自然。そして、オープニング数分間の地獄。地獄、と言っても確かに他の映画と比較すれば描き方が生ぬるいかもしれないが、しかし、あの吹雪の中、監視塔も特に無く、鉄条網も無い強制収容所での労働。つまり、脱出するのは容易でも直ぐ死ぬ、と言う地獄。
そんな所で凍傷になりながら労働を続ける過酷さ。考えただけで寒気がする。
◇
そして脱出したものの、一面雪野原で気付けば同じ所を歩いていた、と言う恐怖もまたひしひしと伝わってくる。そこにはどんな優れた演出法や表現法も必要ない。
ただその壮大な自然を写せばいいだけなのだ。その過酷さを客に予め見せておけばそれで良いのだ。そしてこの映画のラストは誰でも予想できる。最終的には祖国に戻るのだ。あの雪原を歩いて凌ぐのだ。その事を知っているからこそ、尚更その自然の描写の過酷さが際立つ。主人公は絶対助かると分っているのに、こちらも冷や冷やしてしまう。
ってコレは演出か?狙った演出か?盛り上げる演出は確かに下手糞。でも、(少なくとも俺は)主人公に感情移入して、ひたすらその旅を一緒に体感していた。
原住民の村(つーてもテント)にステイし、離れる時の寂しさ、出会った人の重み・・・
主人公が会う人間は主人公をことごとく助ける。悪い人間は一目見れば大体分るキャスティング。物語がストレートにしか進まない単調さは否めないが、あの距離を歩き、時に助けられながら、それでも歩き続け、頭がおかしくなりそうな雪原でも必死に生き延びた”実話”の生命力に打ちのめされた。(ま、雪原を抜けてからは急につまらなくなったのも事実だし、ソ連の中尉が必死になってるのも白けたけど)
だから、ラストシーン。どこにでもあるような家族との再会のシーン。どんな映画でもこんなシーンはあるし、この映画の稚拙な演出力じゃ場内に鼻をすする音なんて響かないのを聞けば分るとおり、泣ける程のシーンではなかった。
にも関わらず、その過程の過酷さと主人公の信念を想像すると、ひたすら涙が出て止まらなかった。 ただ、そこで突然エンドロールに入る。
感動を突然断ち切る。
この演出には心底がっかりした。確かに地味で落ち着いた映画で、撮影の圧倒的な力と実話の強みが聞いている作品ではあるが、この最後だけは許せない。
話の終わり方ではなく、映画の終わり方。
実話モノなら「その後」をテロップで出せよ。それが礼儀ってモノだろうが。
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