[コメント] この世の外へ クラブ進駐軍(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
<「戦争」を引き摺る男たち>
*ドラムの男は長崎にいる親に金を送金している。被爆者だ。彼の戦争は未だ終わってはいない。おそらく永久に終わらないだろう事を観客は知っている。
*米兵は日本兵を殺す夢にうなされ続ける。つい先日まで、多くの米兵にとって「日本人」は殺すための存在でしかなかった。
*傷痍軍人たちは脚を失った男に手を差し伸べるも、男はそれを断る。徒党を組むことが「戦争」を引き摺るのか、はたまた孤独で生きていくことこそ「戦争」を引き摺るのか・・
<混在する階級>
*米軍内においても「命」の重さに違いが存在する黒人兵と白人兵。
*かつての敵:進駐軍相手に身体を売るパンパンの女たち。そしてささやかな彼女たちの夢。
*そんな女たちを同性として蔑視する女。通行人の男も立ち小便しながら女たちを蔑視する。だが、男の感情は女が同性として蔑視する感情とはニュアンスが違う。自らの不甲斐なさと悔しさも込められている。
*闇市でのし上がろうと言い放つ子供。力こそがすべての世界。
*ハワイ生まれの日系兵。彼はジャップなのか、勝ち組なのか・・
<逆転した世界観>
*共産主義者の元教師は戦時中は息を潜め、子供たちに軍国教育を施していた。突然湧いてきた「自由」に運動をするも、それは彼が勝ち取った「自由」では無い。
*かつての敵性外国語を妖しく使い日系人のフリをする男。誇りをかなぐり捨てたこういう男が羽振り良く生きていけた時代。
*家出した子供が言う。「戦争中は大人たちも我慢していた」と。
*戦争中は押入れの中で隠れて聴いたJAZZ。今は現実から逃避する為に兄の逮捕の瞬間にボリュームを上げてJAZZの中に隠れる。
この作品にてんこ盛りに盛り込まれたキーワードは上記の他にも沢山ある。
あり過ぎだった。
もちろんテーマは、日米双方の兵士たちがJAZZを通して融合する様なのだろうが、その枝葉ともいえる上記のようなキーワードが全篇にわたって散りばめられているが故、そしてそれらがすべて未消化で終わっているが故に作品全体の焦点がぼやけた。
上記の箇条書きをみても肝心の主役はコメントするに当たらない程度の存在だった事に驚く。肝心の米兵との交流が中心に据えられなければこの作品は成り立たないのに・・・
群像劇としてはある程度の成功を納めた作品だとは思う。しかし、それは中心となるべき物語が骨太で存在していなければいけないのだ。言ってみれば本作は骨が無く、枝葉のみが気に掛かる奇妙な作品になってしまった。ただし、その枝葉が上記のように大変魅力ある素材群であっただけに残念感が募るのである。
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