とあるシナリオライターの話。危険な運転をする悪役のシーンを書く際に、免許すら持ってないそのライターは困り果ててしまい、本屋で安全運転教則本を買ってきて、その内容と真逆の運転法を書き連ねたそうだ。そうして完成したそのシーンは「とことんリアルで危ネェ！」と評判になった。

　20年近くたった今でもこの作品が色あせないのは、北野武が映画のノウハウをしっかりと理解した上で、ひとつひとつ丁寧にカウンターパンチを合わせているからなんだろう。それは、「お笑い芸人」という舞台で表現者としての基礎体力が存分に培われていた証左でもある。

　当時、中学生だった私にとってこの映画は「お笑い芸人」という人種が「ただテレビでふざけているだけでお金をもらえる人」ではなくなった、ひとつの事件だった。