北野武はこの映画において、演出だけで映画の緊張感を持続させてしまっている。この映画には物語もテーマもほとんどないし、あったとしても申し訳程度のものだと思うが、それにもかかわらず滅法面白い。『キッズ・リターン』以降は物語を語ることにも幾分気を使っているように思える武だが、この作品は映画以外のものが何もない、純粋映画とでも呼ぶべき代物だと思う。久石譲の音楽も個人的には嫌いじゃないが、ここでは音楽を全く使わないことにより、映画としての純粋性を高めている。

同じ組のヤクザに因縁（と言っても言いがかりのようなものではなく、至極真っ当な忠告だったと思うのだが）を付けられた武が逆切れする、スナックでの暴力シーンが素晴らしい。「武がビール瓶でヤクザの頭殴る→ヤクザ激昂→渡嘉敷が激昂したヤクザをボコボコに」これを2回繰り返し。バックにはダンカンがカラオケで歌う「悪女」。天才的なセンスを感じた。

たけし軍団の面々もそれぞれ好演していた。一応主役なのに何もできない柳ユーレイのダメっぷりも良いし、なんといってもガダルカナル・タカが怖い。後半からは全く姿を消してしまうが、この映画の前半はタカの存在感が結構大きい。あのスナックの客を灰皿で殴るシーンには戦慄した。『座頭市』でもおいしい役をもらっていた彼、役者としては素晴らしいと思うが、笑顔の裏にもドス黒いものが渦巻いていそうで、正直近寄りたくないタイプである。

あと、ダンカンの頭突きシーンは最高。