[コメント] 殺人の追憶(2003/韓国)
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時代の変わり目にその事件は起こった。
舞台はただの平穏な農村ではない。韓国にとっての高度成長期にあたるこの時代、その農村には似つかわしくない大工場が進出し、それまでとはまったく異質な労働者とその家族が移住し、迷路のような長屋群や単調なアパート群が形成された。女性が殺されるたび、ゆらりと不気味に漂う工場の無機質な姿。同じ作業着を着た匿名の労働者一群の姿は、『天国と地獄』での互いの素性を知らぬ者が集う無機質な横浜の盛り場を思わせる。それまで交わるはずのなかったものが交わったとき、その顕れのごとく断片的に事件は起こった。
やがて時代は過ぎ、現場を離れた刑事がその現場に戻ったとき、彼は何に思いを馳せていたのか。自分とはまったく異質な刑事との出会い、足を失った後輩の無念、汽車に轢かれた焼肉屋の息子、止められなかった連続殺人、拷問まがいの取り調べ、赤い傘、湿ったあの歌謡曲、キータームは枚挙にいとまがない。ただ、もっとも衝撃的だったのは、少女の口から開かされる犯人のことだったのではないだろうか。自分が過去に思いを馳せたように、犯人も同様に自らの過去に思いを馳せていた、最初に殺人が発覚したこの側溝で。それまで決して明かされなかった犯人の主観が、ほんのわずかながら顔を覗かせる。しかし、支えるべき家族や部下ができた元刑事にとって、かつてのようにそれを直情的な怒りに変えることはできず、ただただ過去を噛みしめる。時代というものは、こうして複層的に追憶されていくものなのだろう。渋い締め方だった。
*言わずもがなだが、時代を追憶する機会すら無慈悲に奪われた死者を失念するわけにはいかないだろう。
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