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[コメント] 花とアリス(2004/日)

この映画にあるのは偏愛ではなく敬虔なる信仰心だ。『花とアリス』は「10代の少女」という神様について歌われた賛美歌なのである。
林田乃丞

 傍から見ていて気持ちいいか気持ち悪いかはさておき、岩井が少女に向ける目線はとことんピュアだ。『花とアリス』は少女の美しさに対する畏怖と信仰心にのみ基づいた賛美歌だろう。岩井は、ロリコンと呼ぶには、あまりにも少女たちの美しさに対して「ひれ伏しすぎて」いる。彼の敬虔なる少女信仰の熱心さは、個人の性癖を超越した普遍的な説得力を獲得していると思う。

 何しろ岩井俊二の信仰心には容赦がない。かつてその分野で強烈な輝きを放散していたヒロスエを完膚なきまでの俗物として登場させ、「その年代」を通過してしまえば神は死ぬという真理を明示する。それは今作において絶対神として君臨した蒼井優にもやがて神としての死が訪れることへの暗示を含んだシーンであり、岩井が「少女」という存在を一個の人間ではなく限定された時間にのみ現れるひとつの「現象」として捉えていることがわかる。

 だから蒼井優の輝きは決して特定男子ひとりに向けられることはない。この映画の少女たちはただ、そこにいるだけで輝いている。紙コップのバレエも、落語の練習をしながら歩く通学路も、そんな少女を追い越してゆく運動部員たちも、ただそのままで美しい。岩井脚本からは少女を手篭めにしたいなどという下劣な意図は皆目見当たらないのである。

 つまり何が言いたいのかというと、『花とアリス』からはむせ返るような桜の匂いは感じても「私も殺し屋にしてよ」的な、「お兄ちゃん、何だか眠くなってきちゃったうーん」的な少女の剥き出しの体臭は感じられず、本物のロリコンはこんなもんじゃ満足しませんよって話だ。えーと、あくまで推測ですけど。

(評価:★4)

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