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[コメント] アップルシード(2004/日)

本作の最大の問題は、公開が『イノセンス』の後になってしまったこと。こっちが先だったら、もう少し点数も高くなっただろうけどねえ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 さ〜て。今回久々に思いの丈をぶつけさせていただこう。なんせ私は20年来の士郎正宗ファン。彼の漫画で映像化されたのは大概は観てるし、『イノセンス』の後と言うこともあるし…

 2004年は士郎正宗原作漫画が2本映画化された。1本は言うまでもなく押井守監督による『攻殻機動隊』(1995)の続編『イノセンス』であり、もう一本が本作となる。士郎正宗作品は映像センスをいたく刺激するため、これまでにも彼の作品は「ドミニオン」、「ブラックマジックM-66」(これは原作者である士郎正宗本人が監督している)、そして本作も一度OVAで映像化されたこともあるが、それらはことごとくコケた。士郎正宗作品の世界観を映像化するまでには、実に20年の年月が必要だったと言うことになるか。

 ただ、本音を言わせてもらうと、当初全然期待してなかった。『イノセンス』のショックもあって、これ以上の映像表現は無理だろう。と思わせられていたし、予告編があまりに期待と違っていたから。特に予告編のコピー、「サイボーグ化されたかつての恋人」とか「戦いが終わったら母になりたい」とか…予告観て「こいつは原作を知らないで作ってやがるな」とか、「ふざけるな」とか呟いたものだ…あれだけ原作ファンの気持ちを逆撫でした予告も無かろう。更に、あの膨大な情報量を持つ原作の1〜2巻を映画化すると聞き、絶対に無理だと確信。だから、ケチョンケチョンにけなすことになるだろう。と言う思いを持って本作を鑑賞する。

 …しかし、私の期待は裏切られた。良い意味で。

 思った以上に面白かった。そりゃ確かに酷い部分も多数ある。観てる内にどれだけ心の中でツッコミを入れたか分からないほどだ。だが、それを差し引いても、面白い作品に仕上がってた。

 原作ファンを呆れさせたあの予告編、本編を観て納得した。この脚本書いた人間、原作を分かってないどころじゃない。逆だ。本当に良く原作を理解している。これは確信だ。その上で原作を徹底的にバラして新しいシナリオを作り上げてる。1,2巻どころか4巻(そして未だ単行本化されていない話)までの設定まで持ち込んで、よくここまでバランス良く仕上げたものだ。

 かつてのOVAが駄目だったのは、原作をいかにして分かりやすくするか。と言うところに主眼が置かれていた点にあった。確かに分かりやすくはなっていた。だけど、その分薄っぺらくなってしまったし、膨大な設定量に押しつぶされてしまっていた。

 それもあってか、本作は原作とは似て非なるものに作られている。

 以下、その“違う部分”を検証していこう。

 先ず、最初にデュナンが単独で出ていること。彼女はブリアレオスが死んだものと思っているし、当然彼がサイボーグとなった事を知らないでいること(予告編の「サイボーグ化された〜」は、ここで意味を持つ)。

 デュナンはオリュンポスにとって物理的な重要人物となっていること。原作ではあくまで戦士の一人でしかないが、これによってデュナンの戦いに深みが与えられた。

 バイオロイドと人間の明確な違いが語られるのも原作との違いだ。原作ではバイオロイドと人間の違いはあまり語られないが(延命措置が必要な事くらい)、本作ではバイオロイドは人間によって生殖機能を消し去られ、延命もピーキーになってる。それが本作の主題となっているのが特徴。

 オリュンポスの首脳、行政官であるアテナがデュナンと彼女の母と関わりを持っていたり(彼女がバイオロイドという設定は変えられてないけど)、7人の長老が人間で、彼等自身の考えで動いていること。彼等は皆、オリュンポスの未来、引いては人間の未来というものを憂えたあげくに過激な手を使うことになり、それが明確な敵の不在と言う演出がされている。原作でも長老達は“エルピス(希望)計画”を発動するが、それが「人の生殖機能を無くする”という具体的な方向性を持っているのも重要だろう。又、バイオロイドであるアテナがデュナンを殺してさえバイオロイドの機能制限を守ろうとしている。人間である長老達が人類の安楽死を選んだというその矛盾が面白い。

 あと細かいことだけど、デュナンの母が登場することで、彼女が純粋なアングロ・サクソンっぽくなってしまったこと(原作では複雑な民族が彼女の血に混じり合ってる)。それと後ろ姿で登場する人間の頃のブリアレオスも白い肌に金髪(これも原作ではアフリカ系がインドネシア系っぽいんだけど)。そこは変えてほしくなかった気もする。

 ストーリーはやや詰め込みの感はあるものの、物語としては“一応”破綻してない。原作から多少離れることで、それを可能にしていた…そりゃ、ツッコミどころは多いが。途中ブリアレオスが死んでしまった!みたいな演出はやるべきじゃないだろ?しかも死にかけてたはずのブリアレオスがすぐに復帰してるのもなあ(あの部分には不満が多い。そもそもヨシツネはあんな小さなリペアキットだけで来ちゃいけない。折りたたみで良いからラボとドクトル・マシューは持って(?)こないと。それにブリアレオスだって、あんなコテッと動作止めるんじゃなくて、苦しそうな息の下でデュナンを押しやって「行け!」と言わせるべき)。それにギュゲス・ダミュソスをデュナンに渡してしまって、どうやってあんな早く帰られたのかも謎だ。

 キャラクターに関しては…最後まで違和感が抜けなかったなあ。髪の毛までちゃんと書き込んであるのは評価するけど、房の一つ一つがゴムのように固いように見えるのはちょっといただけない。それにヒトミが、あれじゃまるで人形だよ。ブリアレオスは喋るのに口開けないし(バイオロイドは人形っぽく演出しようとしたのかもしれないけどね)。

 それで演出で面白いところは、この作品、重量というものが大変細かく描いている点。最初のブリアレオス登場で「足音がえらく軽いな〜」と考えてたのだが、実際ブリアレオスって、そんなに重くない(デュナンが片手で支える程度には軽い…ほんとかよ?)。重量によって(後は場所によって)ちゃんと足音とかも変わってるのが味噌で、最後の多脚砲台の足音のでかさは凄い迫力。

 この辺は全部褒められるべき部分。勿論褒められない部分だって山ほど存在する。

 …ザクザク出てしまうので、今回はあんまり言わない。

 それでもいくつか。モーション・キャプチャー使って滑らかな動きは理解できるんだけど、どう見てもワイヤーアクションが入ってる理由は謎。元々ワイヤーアクションって、実写でアニメっぽい動きを出すのが目的だって気もするんだが…

 あと、兵器についてだけ書かせてもらうけど、冒頭、戦車が不整地をあれだけの速度で回頭するのは無理。更にブリアレオスが戦車を撃って爆発するんだけど、複合素材を用いていたら、あんな爆発はしない。土台、保護すべき人物がいる前で戦車を破壊するような兵器を使うか。後、オリュンポスの軍が使ってるマシンガンが何故かM16…おいおい。ここでヴェトナム戦争で使われた銃を見ることになるとは思わなかったぞ(笑)。ランドメイドに初めて乗ったにも関わらず、あんなに動かせるデュナンの描写も、無理があるだろ?最後にギュゲス・ダミュソスに乗るシーンは失笑もの。

 『イノセンス』公開前に観ていたら、多分★4は付けられたんだろうけど… 

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)Orpheus tkcrows[*] ハム[*] ina ふかひれ[*] セント[*] ガリガリ博士[*]

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