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[コメント] 黄色いリボン(1949/米)

フォード監督の中でもとりわけ異色ともいえる作品。騎兵隊3部作では第2部の本作だけがカラーフィルムを使用しており、また内容もホームドラマのようになっているのが特徴です。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
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騎兵隊3部作『アパッチ砦』『黄色いリボン』『リオ・グランデの砦』のなかで、第2部に当たる本作だけがカラーという点にまず注目したい。カラーフィルムが普及しつつある中で、フォード監督はカラーを撮りつつも白黒映画も多く撮り続けた監督である。初期のカラー作品の中で、本作は「赤」「青」「緑」の色鮮やかな原色系ではなく「黄色」という中間色を主題に描いたところは面白い。濃紺の凛々しい女性用軍服姿のヒロインに黄色いリボンで色づける。荒野の背景としたこのさり気ない人工的配色は、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している。このように、3部作の他の2作と比べると本作がカラーであるにもかかわらず、色鮮やかな印象があまり残らないのも意図的な演出なのだろう。

とは言え、カラー映画としての見所は随所にある。特にモニュメント・バレーの描写には息を飲む。大空をバックに地平線を低く配置し、隊列が進む状況を描写しながら、カメラアングルをゆっくりと変え、起伏に富んだ地形を描くところなど名作『駅馬車』を彷彿とさせる。また上官の妻と娘を別の砦に護送する場面やラストの夜襲を、深夜であるにもかかわらず明るく描写するところなど、映画ならではの面白い表現方法とは言えまいか?

第3部の『リオ・グランデの砦』では再び白黒で撮ることになる。この作品でヒロインとなったモーリン・オハラは、続くアカデミー監督賞・撮影賞に輝いた『静かなる男』ではヒロインとして一転「赤毛」「青いドレス」「緑の牧草」の原色系で色鮮やかに描かれ、観客を見事に魅了してしまう。まさに「色」の成せる業である。私的に同じ印象を持つのは黒澤明監督ぐらい。

さて、映像に関する所感はここまでとして、ストーリーについて・・・

インディアンに襲われた御者不在のまま暴走する馬車を静止するところからはじまる本作。馬車の中の射殺された役人。このような物騒な描写は、先に不安を感じさせる。しかし、一転、砦では若い2人の将校と少佐の娘との3角関係を描いたり、主人公の妻の墓参りを描いたり、驚くほど俊敏なタイリー(ベン・ジョンソン)を描いたり・・・、と、なかなかいつもの騎兵隊の戦闘が見られない(注:タイリーの本格的な活躍は次作に持ち越し)。

このままストーリーは進んで行き、4集落から来たインディアンとの対決を前に、引退間近の主人公(ジョン・ウェイン)は後身の育成のためやむなく指揮権を若手に委ねる。主人公は引退記念に銀時計をプレゼントされ涙を浮かべる。最後の最後で若手を助け、インディアンとの全面対決を逃れることに成功し、新天地に旅たつ。

当局は、頼れる主人公を手放すべきではないと考えを改め、タイリーを派遣する。主人公は陸軍の3エース(シェラトン将軍、シャーマン将軍、グラント大統領)の連名による復職の命令書を読み感激する。タイリーは4エースが揃えば(旧南軍のリー将軍のこと)良かったのに・・・と付け加える。砦に戻った主人公はみんなの歓迎を受けながらも、まず妻の墓に任官を報告する。

ラスト。ナレーションで、主人公を先頭に進行する連隊を描きながら「こうして、格好も汚く、歴史の本の1ページにも残らない彼らが闘った土地が今のアメリカ合衆国になった」と結ぶ。

このように、西部劇や騎兵隊ものとして、他作にはないホームドラマ的要素をふんだんに盛り込んでいる一方、戦闘はほとんどない。これはジョン・フォード監督の作品のなかでは、カラー映画であること以上に本作の大きな特徴といえるでしょう。観るものにとっては受け入れ易く、観るものにとっては単調と思われることになるだろう。活劇を期待していた私としては、映像の美しさと妙技に心打たれたものの、展開に物足りなさを感じた。

(評価:★4)

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