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[コメント] ヴァンダの部屋(2000/ポルトガル=独=スイス=伊)

この映画の登場までは、キャメラの設置を待って、キャメラの前に登場人物が立って何か喋ったり動いたりする以上、その登場人物は素人玄人を問わず俳優であることを余儀なくされたはずだ。しかし、この映画は、登場人物が俳優なのか、そうでないのかという問いすら無効にした。
ジェリー

家の立ち退きという切実な重要事の解決を迫られているはずなのに、主人公(?)ヴァンダは、一時の慰みを得るための薬物を熱で暖めて溶かすために、使い切った何十個もの使い捨てライターから火のつくライターを一つ一つ確かめながら探し出す行為に延々と耽る。キャメラの存在を知りながらキャメラの存在を無視することのできる映画史上初めての人物がヴァンダだ。ヴァンダは実在のヴァンダを演じているのか? 殆ど不法行為をするだけの実在者を公開のメディアである映画が撮る事ができるのか?

フィクションにもドキュメンタリーにも向かおうともせず、それらの区分を超えた地平に立った映画は圧倒的な膂力で「貧困」という重い命題を見る者に突きつけて、軽やかに3時間を終える。凝視以外のことをキャメラがしていないし、キャメラが凝視した以外のことから見る者が何一つ追加も削除もできないというファシズム的事態にぶち当たりながら、我々は途方もなく広い映画のメディアとしての自由を満喫するという稀有の事件に遭遇するのだ。これ以前の映画の掲げたメディアとしての自由が恐ろしく幼稚で小さく見える。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)赤い戦車[*]

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