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[コメント] 紅夢(1991/中国=香港)

歪んだ制度に埋没していく一人の女性が目にする全ての事象は、歴史の重みと歴史の老朽と陳腐そのものであり悪夢。家畜同然に女性が女性として生きるのが困難な時代が今も生きながらえ、チャンイーモウの眼力で社会に埋没し欠けている才能を目覚めさせる。
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







何が人間を小さくするのか、その理由の一端が目に飛び込んでくる説得力ある幻想的な世界。

血と情熱の象徴である提灯の赤、建物内に配置された冷酷さの象徴である屋根の青、冷徹さが制度を維持していく不気味さの象徴である雪の白。チャンイーモウは色の使い方、色の働きが物語の中心に入り込んで登場人物に力を吹き込んでいく作用を理解しまくっている、凄い監督。色彩感覚が鋭く、女性のみならず、人間の醜い部分を赤裸々に語れる純粋な人間である。

中国のみならず、人間としての身分を全うする事を忘れてしまい、私利私欲に突き進んでいくことの醜さの行き着く先を色あせることのない手法で表現している。大風呂敷を広げないで、ひとつのコミュニティー、ひとつの区域内だけでそれら全てを表現してしまえる、才能と洞察力は見事としか言いようがない。焦点が散漫になりがちなスケール重視、歴史映画にありながら、そのような誘惑に惑わされることなく、条件を狭めて人間密度を濃くしたロケーション設定は制作費偏重主義の映画界で復興されるべき精神ではないだろうか。

ラストに訪れる第五婦人の登場と、第四婦人の狂乱との対比に込められた映像のメッセージが、今日に至るまでの人間の成長のなさを示しているのだとするならば、この映画はその成長のなさを補うために産まれてきたのかも知れない。

一言も嘘をついてない映画。

一言も嘘をつけない。

2003/5/17

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)いくけん[*] けにろん[*]

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