[コメント] 王立宇宙軍 オネアミスの翼(1987/日)
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一言すれば、全篇に渡り、盛り上がりに欠ける。色々細部までこだわって頑張っているのはよく伝わるんだけど。
ただ、最後の、神の領域とされた宇宙にまで侵出した人類に対する諧謔を込めた、シロツグの祈りは、なかなか感慨深いものを感じさせられた。戦争や政略、利権の渦に巻き込まれ、妨害されると同時にそれによって押し上げられてもいくロケット開発。この映画には、純粋無垢な存在など居ない。リイクニにしても、シロツグに対する態度に、どこか二面性や狡さが垣間見える。それだけに、そんな人間たちを、シロツグという凡庸な青年が「神の視点」から眺め下ろし、天から地上へ向けて声を届けようとする場面は、達成感と表裏一体の虚脱感、絶望さえもない虚無感が漂う。キリスト的な超越神の不在を確認した人間が、仏教的な諦念を語る場面とも言うべきか。
人類の歴史を回想する場面は、ともすれば説教臭い印象を与えかねないが、「我々の世界とよく似た、だけど少し違った異世界」という設定があるおかげで、距離をおいて客観的に見ていられる。宇宙という、距離的・空間的な俯瞰に対する、時間的な俯瞰。それは映像、或いは言葉という媒体を通じて可能になる。ロケットとはまた違うテクノロジーにかける、制作者達の想いもそこに感じられる気がする。
神様の居なかった天から降りそそぐ雪が、リイクニが神の言葉を伝えようと人々に配る紙に落ちて濡らす。これはもう、祈る対象を見出せない人類、何千年も同じく、偉業の背後に愚行を常に抱えていく人類の、祈りとも言えない祈りに思える。
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