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[コメント] 原子力戦争 Lost Love(1978/日)

日本映画ではほぼ唯一の完璧なフィルム・ノワール。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 問題作と言うからどんなのかと思っていたのだが、内容を言うに、実にまっとうなフィルムノワール作品である。と言うか、邦画でこれだけしっかりしたフィルムノワールにはお目にかかったことがないほど。正直、日本における唯一の完璧なフィルムノワールと言っても良い。物語展開に分かりづらいところがあるのも確かだが、ノワールの面白さの一端はそこにあるので、これも又上手く作られたとも言える。

 主人公の造形も、決して正義感ではなく、アウトローとしての欲望に忠実で、自分に気持ちが良いか悪いかだけで全てを判断するというのが良い。坂田の姿は『キッスで殺せ!』(1955)のマイク・ハマーような感じだし、海外と較べ性的な規制が緩い日本映画だからこそ主人公のアウトローぶりが映える。その意味では原田芳雄に本当にぴったりな役回りだろう。ノワールには欠かせない山崎明日香(山口小夜子)というファム・ファタールもいるし、本当に見事なフィルム・ノワールと言って良い。

 強いて文句を言うとしたら、画面がざらつきすぎてることと、必要以上に肉感的に生々しすぎるのがうざったいことか。ストーリーで充分に分かるのだから、無理にそんな濡れ場持ってくる必要ない。サービス過剰。

 こんな良作が邦画にもあったということは声を大にして言いたいし、日本映画史においてもっと評価されて然るべき作品だと思う。

 ただ、本作が邦画界における鬼子のような存在になってしまったという理由も確かに分かる。

 理由はたった一つ。原子力発電の問題にあまりに入り込みすぎたから。

 本作の物語そのものが原発の利権と、事故の隠蔽についてえらく踏み込んでいて、ATGだからこそ出来たと言うか、ATG以外では作ることが出来なかった。もの凄い覚悟でなければ作れなかったと思う。

 ただ、そこまではギリなんとか封印にまでは至らずに済むのだが、この作品、一箇所絶対にまずいシーンがある。

 一箇所だけ本物ドキュメンタリー映像が使われてるのだが、その内容は撮影隊が無許可で福島原発に入り込もうとして、発電所の守衛に止められるという場面。正門から入ろうとして、守衛に止められたところで引き返しているのだから、法的にはセーフだが、積極的に法を犯そうとしてるというシーンになってしまってる。これは絶対まずいだろ(邦画のドキュメンタリー映像観てて「やべえだろこれ」と呟いたのは『ゆきゆきて、神軍』(1987)以来だ)。

 この部分突っ込まれたら何も言えない。やりすぎた。

 だが、そのやり過ぎた部分も含め、2011年のあの福島原発事故を経た今の日本は、この作品をちゃんと直視するべき時期になってるのも確かだ。この時期にDVD化されたのは、確かにそれが理由なんだろう。

(評価:★4)

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