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[コメント] 華氏911(2004/米)

地元じゃ職にあぶれた連中が食うや食わずの貧乏暮らし。前途なき若者はキャバクラのスカウトみたいなノリで戦場へ送られる。その戦争で死ぬほど儲けて笑いが止まらないやつらがいる。あいつらの身ぐるみを剥いで、寒空の下に放り出してやる!
ペンクロフ

この映画にどれほどの事実誤認、歪曲、偏向、その他もろもろドキュメンタリーとしての欠点があるのか、オレには正直わからない。よく知らねえんですよ、政治のことは。知っているのは坂口征二ぐらいなもんですよ。ただオレにもこの映画に関して判ることがいくらかあって、そのひとつは一見賢そうな連中がこれらドキュメンタリー映画としての欠点をいくら指摘しても、この映画のマイケル・ムーアをまったく撃てていないということだ。

なぜなら、ムーアは言葉遊びをしているのではないからだ。ただ怒りをブチまけているのだ。ムーアの大きな武器である筈の「笑い」さえ、この映画では巨大な怒りにかき消されてよく見えない。冒頭コメントに書いたようなムーアの怒りは至極真っ当で、その怒りが本物である以上、冷静なツッコミを入れても無駄なんですよ。そんなもん「この人はなんだか怒ってるけど自分は冷静ですよ」というポーズ以上の意味はない。だってムーアの怒りに何も応えてないんだから。この映画は感情的どころじゃない、感情そのものだ。ムーアの怒りそのものだ。利害を超えた本気の感情は、やはり人の胸を打つ。

これは確かに観客の理性よりも感情に訴えかける映画で、そういう意味ではプロパガンダと言われても仕方ないのかもしれない。ただいわゆるプロパガンダと違うのは、ここに作り手たるムーアが得をする構造はないのだ。むしろ身に及ぶ危険まで含めたリスクのほうが大きいだろう。この映画が観客の感情を誘導しているとも思わない。なぜなら観客以前に、ムーア自身がカンカンに怒っているからだ。ちょっと引くくらいの勢いで怒っているのだ。誘導でも先導でもなく、ムーアの怒りはぶっちぎりで独走している。オレは彼を称えたい。

(評価:★4)

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