コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 華氏911(2004/米)

人類が地球規模で「クライシス」に向かっている今、金持ちだけが「ノアの箱舟」に乗れると誰もが信じだしたのではないだろうか?
新町 華終

…でなければ彼等(金持ち)が情け容赦なく死地へ送り出せる理由も、彼等(貧乏人)が自ら覚悟して死地へ向かう理由もうまく説明できない。

2004年9月現在、共和党候補ジョージ・W・ブッシュ氏優勢が伝えられる昨今であり、ブッシュ再選なんてのはそれこそ映画を観た者とっては一種の「クライシス」かも知れないが、一方で日本に目を向けてみても、地球温暖化によるものと見られる真夏日の日数最高記録や、連日伝えられる巨大地震・大災害の恐怖や、幼い子供・一人暮らしの老人らがつまらない理由で殺されてしまうニュース、年金資金が驚くような運用により枯渇していってるといった将来不安など、「クライシスまでの予兆」は連日伝えられ、私たちはこれらの「恐怖」の出来事が余りに多いために、時折思考が麻痺してしまった感覚に陥りがちなように思う。

それが証拠にであろうか、ネットで見る限り、例えばこれらマイケル・ムーアの伝える「真実」(?)のオンパレードに食傷気味であるという感想を漏らす人も非常に多くなってきている。もう実は他人への「同情」なんて余裕もなくなってきているのかも知れないという危惧も。今や「力」と「富」への信仰心は上記のフィアー・コントロールも加わって、世代も性別も身分も関係なく、強烈なものとなってしまっている感があるし、「WINNER TAKES ALL」の考えもすっかり浸透し、21世紀に入り、一億総中流意識だった一昔前までとは日本もガラリと価値観が変わってしまった…このことに異論を挟む人も今更いないだろう。

20世紀後半においても「クライシス」を予兆させる公害問題やオイル・パニックなどはあったにせよ、所詮はフィクションめいたものであったように思う。しかしあの9・11以降、アメリカ人にとっても「クライシス」はハリウッドの作り物じゃない身近な現実と成り得ることが証明された。

さて散々メディアを通じて流される「クライシス」に際して、誰もが我が身の最悪の事態を想定していると思う。そして、そうしたときに必ず思い立つある結論が「お金」だ。自分だけが助かる方法を考えれば、『ボーリング・フォー・コロンバイン』でのアニメーションのような、アメリカの一般家庭が銃をもってわが身を守るのと同様に、お金を持ってわが身を守るということも誰しもが思い描く「これならば安心」という姿だと思う。 

そして誰もが思う…「金さえ持ってればノアの箱舟に乗れるんじゃない?」と。

.

この映画の中に「金」のことをこれっぽちも考えていない人間がいないのもこの一種の信仰心を証明していると言えないだろうか? あのミシガン州フリントの家族の息子たちも、今家族が食えないからと言って戦場に行ったワケではないのだ。正直、余り欲さえかかなければ、スーパーマーケットの駐車場でぶらぶらする若者のままでいることも可能だったのである。

.

最後に、映画の最後でも紹介されていた『1984』の一節を…

「戦争は真実でなくても、勝たなくても構わぬ。

 戦争の目的は勝つことではなく、継続させることだ。

 近代戦の本質は、人間労力の所産の破壊である。

 階級社会の成立は、貧困と無知が条件だ。

 そして戦争が計画されるのは、飢餓をもたらすためである。

 戦争は支配階級が民衆に対して行う。

 目的は相手国に勝つことではなく、社会構造の変革を防ぐためだ」

私の頭ではこれ以上の明晰な解釈は思いつかない。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (11 人)カレルレン[*] おーい粗茶[*] 水那岐[*] movableinferno[*] アルシュ[*] はしぼそがらす[*] リア tkcrows[*] ボイス母[*] ジョー・チップ[*] IN4MATION[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。