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[コメント] 茶の味(2003/日)

「♪なんでアナタは三角定規なの!?」のフレーズが頭から離れない。これはオタク風味の小津スタイルムービー、しみじみする場面はちゃんとあるけれど、穏やかな展開を期待すると後頭部をどつかれます。ご用心召されよ!
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ともかく、純情物語からストーリーは始まるのだが、美しい田園地帯に散る桜のなか、少年の頭をあの子が乗ったサヨナラ列車が通り抜けるのである。その他明らかなギャグ、ギャグと見せかけたギャグ、ギャグとは判りづらいギャグなどが満載の映画だ。それでいて「さりげない力技」でラストへ持ってゆく手腕は見上げたものである。いささかこの変な家族についてゆけない観客が出ることは必至ではあるのだが。

そう、これはオタクの家族物語なのである。母親は奇跡的なアニメーターへのカムバックのため、往年の金田伊功のようなケレン味たっぷりのポーズをとるアニメパートを仕上げるし、それに全く動じることなくポーズの添削を演技で見せるオジイは何者だ、とオソロシくなってしまう。そして漫画家の叔父は自分の誕生日のためにCDを創ろうとし、オジイと母とともにノリノリで唄い踊るのだ。残りのキャラクターにしても引きこもり寸前だったり、臆病者の度が過ぎていたりで「ナーズ」の範疇には間違いなく入る連中ばかりだ。周囲の人々にしても、河辺で舞を舞う男だったり、電車内でヒーローのコスプレをして仲間に写真を撮らせる奴らだったりする。いったいこういう田園とは何なのだ。

だが、その中でしみじみする展開をはじめに広げてくれるのが、他ならぬ変人のオジイなのである。元漫画家なんだか未だに現役なんだかの彼が急死し、あとに家族たちを描いた紙アニメ(要するにパラパラまんがなのだが、スケッチブック1冊を使った彩色原稿が何冊もある)が発見されるのだ。その中に鉄棒の逆上がりができたことを自慢する孫娘の姿がある。憂鬱な幻影を取り払うには逆上がりができるようになることが必要だ、と叔父に聞いた少女は、懸命に練習しているところを祖父に見られていたのだ。家族でもっとも「何だか判らない」存在は、家族をちゃんと思っていたのである。

そして、長男の恋の成就も暖かい雰囲気を演出してくれる。土屋アンナ(この子も田舎づいてるね、実際のところ)がちょっと蓮っ葉なマドンナとして長男のクラスに現われ、囲碁部に入る。将棋・囲碁はお手の物の長男は、いつも通り勇気を奮い起こせずにいたものの、先輩の後押しで囲碁部に入部し、やがて土屋と親密になってゆく。恋に報われた長男、逆上がりができるようになった妹、その他この話を見守る諸々の人々を、美しく夕陽が包んでゆく。話だけ聞くと無理矢理、といった感じが否めない大団円だが、その通りだ(笑)。しかし、力技のハッピーエンドはこの世界が監督から愛されている証しだ。その匂いが其処此処に散りばめられているからこそ、笑って許すことができるのである。これは愛の映画だ、というといかがわしく聞こえようが、間違いなく歪んでいても愛、なのである。ここに出てくる人々もまた、この国では弱い立場にいる人々ながら、真摯におのれの行動を愛し、そしてそれを達成することのできたおのれ自身を愛している。異端の人々を描きながら、最後までこの映画を観終えた人たちに普遍的な暖かみをこの映画が与えてくれるのも、つまりはそういう訳なのである。

だけど、我修院達也のオジイだけは、全く爺らしからぬ代物であることは否定できないが(苦笑)。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)浅草12階の幽霊[*] スパルタのキツネ[*] トシ べーたん 茅ヶ崎まゆ子[*] セント[*] IN4MATION[*]

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