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[コメント] スチームボーイ(2004/日)

単に過去でもなく未来でもない、この架空の世界においての夢や希望、驚異や怖れって何? 設定のあやふやな世界の中心で「ぼくはこう生きる」と叫ばれても、どう思えばよいのかわからない。2度目の鑑賞からは純粋に画の凄さを堪能できそうなので+1点。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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スチーム城の威容を前に、「この世界」の人たちは、「本当は」どう反応しただろう? 家屋や家族を踏み潰されながらも、なお圧倒的な文明の誕生を、その先に開けるであろう輝かしい未来の姿をまぶしく見つめただろうか? あるいは人知を超えた存在に、やってはいけないことをやってしまったように感じただろうか? 手塚治虫の「火の山」というマンガで、噴火しつづける昭和新山を眺めながら登場人物が「恐怖も度を超えると美しい」というような台詞を言うのだが、天地の変動に対する畏敬の感情に近いものをいだいたのだろうか? 

少年があれだけの災厄の後に、それを引き起こした祖父と父に対し「きっとまたどこかで発明を始めるさ」と前向きに締めくくることにリアリティを感じることができない。そんなことを言うだろうか?という疑問がラストのヒーロー然としたスチームボーイの姿に戸惑いを感じさせる。それは冒険活劇としては致命傷に近い。スチーム城のみならず、飛行兵、パワードスーツ、現代のわれわれでさえ見たこともない超先端技術に対し、この世界の人々がどのような感情で受け留めたのかを正しく描いてこそ架空の世界はリアリティを獲得する。そこで、主人公がどう生きるのかがわかって初めて共感もできるというものであろう。いくらお嬢様で世間知らずだからって砲弾が真横をすりぬけてって「危ないじゃないの!サイモン!」っていう反応は、マンガの約束ごとさえ守っていないのでは? 空をとぶスチームボーイに喝采を送る子供たちもとってつけたようで何か白々しい。急に自社株で儲けてといいだす青年科学者や、目の前の奇蹟を割合あっさり受け入れ、国のためにと戦うロバートさん、壊す前にそれに狂おしく惹かれないだろうか? 何かみんな正しくない。 

科学や文明が「善」か「悪」かとか、「それを使う側の心(モラル)の問題なのだ」とか、祖父(善)と父(悪)との相克の間で、主人公の煩悶を掘り下げていくとか、それこそ手塚治虫や石ノ森章太郎や永井豪などの先達が語り尽くしたテーマによらず、おそらくは「創る(破壊を含めて)」ことへの肯定、とにかく人間は何かを作っては壊し、また作っていくという方向へ向かう存在であることの肯定(大げさに言えば「生命の肯定」)、というような少々わかりずらいテーマに挑戦したのは、彼らの後継者であるマンガ家大友克洋ならではの気概だと思う。「創る」ことの「明るさ」、「躍動感」、「創る」ことを肯定的に、もっとも画的に表現しやすかったのが、19世紀という時代だったからこういう設定を選んだんだと思うが、時代の雰囲気だけを安易に借りてきてしまったような薄っぺらい感じがする。物語を、作者が「語らない」「説明しない」「作為的に意味をもたせない」で、作り与えた世界の中で主人公に自然に行動させるだけで、何かを伝えていくというなら宮崎駿の右に出るものはいないと思うのだが、宮崎作品はその世界観の構築がどれもこれもよく出来ていて、(フィクションの作り方として)間違いが感じられない。そういう世界では主人公が自分の信念を、進むべきベクトルを指し示すだけで作品のメッセージ足り得る。「スチームボーイ」に足りなかったのはそういうところじゃないかなと思う。

(評価:★3)

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