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[コメント] ガルシアの首(1974/米)

時に「俺の映画だ!」と思える作品と出会える時があるから映画は止められない。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ペキンパー監督作品は繰り返し観るのに適している。

 これは別段褒め言葉ではない。確かにペキンパー流の描写は何度観ても凄いものだが、監督の作る作品はおおむね説明不足なので、後半に入ってようやく主人公がどのような立場であり、何をしようとしているのかが分かるようになってるため、一度通して観た後で、もう一回前半を観ると、ようやく骨子が分かってくるということである。私はペキンパー作品大好きなんだが、初見は結構きついと感じることも多い。

 本作も前半はかなり退屈な感じだった。だいたい一般人が殺し屋を出し抜こうとか、危険に自ら入っていこうとするモチベーションが分からない。人物描写が下手なのはこの人の特徴か。などと思いながら流して観ていたのだが、やはりこの人の作品の特徴で、中盤以降で物語の構造が頭の中で結びつき、構造が理解できてくると俄然面白くなっていく。前半のぐだぐださまで全部このための演出の伏線だったのか!となって価値観が180度転換するのもこの監督ならではだ。

 ところで“良質の映画”とはなんだろう?人それぞれだろうが、一番は、登場人物が自分自身と同化できるものではないかと思ってる。登場人物、特に主人公を観ていると、なんか自分自身の身につまされ、時にそれを羨ましく、時に過去の(あるいは現在の)自分を見てる気にさせられて痛々しく感じる。日常をあつかった映画が全く廃れないのも、こういう感性があるからなんじゃないか?と思えたりするのだが、別段これは日常に関する必要は無かろう。『ロッキー』が未だに人気あるのは、ロッキーの姿に自分自身を重ねる人がどれだけいるかという証拠とも言えるだろう。

 で、本作はまさしく私自身が主人公のベニーに見事に重なった。

 ベニーが自分から「やる」と言っているのに、いかにも嫌そうに行動している姿が妙に印象的だったりする。これで大金持ちになれる!と言う意識よりも、ただ何となく恋人と旅行に行って、恋人のご機嫌取りだけやっているって感じだし、そこに現れ、恋人にちょっかいを出してきた男を撃ち殺した時も、なんかやる気が感じられない。面倒事を振り払っただけと言う雰囲気を思い切り醸していた。なんかやることなすこと、命令に従って嫌々やってる感じ。

 なんかその姿が妙に自分自身にかぶってしまって、妙に近親感を覚えてしまったわけだが、それでベニーが、恋人を殺され、しかもガルシアの首を巡っての殺し合いに巻き込まれたあたりから、もうこれは感激の嵐。

 ベニーが自らの野生を解き放ち、自分でも知らなかった殺し屋としての度胸と才能を手に入れていく。これって自分では望んでもいないのに(いや、正確には望んでだが)苛烈な競争社会に放り込まれてしまった自分自身の身に置き換えてしまった。自分では望んでない嫌な才能が伸び、余計な期待をされたりしながら生き抜いている今の自分にまさしくはまって見えてしまった。

 否。格好良い事言うのはやめよう。

 「あんたには才能無いわ」とはっきり言われたり、チクチクと粘着質な嫌味を言われ続けてる自分自身がやりたいことをやってくれてる!と言うことで惜しみない拍手を送ってる自分に気づいた。後のことを全く考えてないなら、私だってぶん殴りたいやつは何人だっているし、蹴り入れて辞表たたきつけたらどれだけ楽か。と考えることもしばしば。そんな中に私だっているのだ。そんな私の代わりをやってくれる!そう思った瞬間が本作にはあるのだ。何というカタルシス。

 「これは俺の映画だ!」これを感じさせてくれただけでも、本作は最高点を上げて当然の作品である。

 本作のラストはペキンパーらしい無茶で派手なものだが、主人公のベニーは最初と同じで、あれだけのことをやってのけても、常に面倒くさいのを嫌々やってると言う態度を崩さない。そんな姿がとにかく格好よかった。

 とにかく、もう最高!と思わせてくれる。それだけで充分。

(評価:★5)

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