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[コメント] 黄色いからす(1957/日)

抽象度を増す終盤のキャメラに心撃たれる。ここでは子供も大人もないのだ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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もちろん主役は伊藤雄之助だ。年下の上司である多々良純に戦後は仕事のやり方が変わったのだとねちねち虐められるのだが、同じことが家庭でも起こっているのだ。引揚者たる彼にとっては全てが浦島太郎状態だっただろう。時代の変化に馴染めないあれこれがこの名優によって十全に表現されており、ラストの大団円だって彼にかかるとえも云われぬ無理矢理感がある。頑固な父親はここでは何の意味もない。こなれた田中絹代との対照が際立っている。あの年代の男が直面した不幸が確かに記録されている。

しかしやはり本作は設楽幸嗣の映画だ。母親の前での突然の放歌や、孤独な動物園の件、父親との駆け引き、神経症的ないちいちの仕草に至るまで、甘ちゃんな子供がいずれ直面する困難を描写して素晴らしい。終盤のキャメラで五所は即物的なサイレントの方法を採用しており、バスの窓打つ雨や霧の立つ山道、汽車の踏切と総毛立つような哀しみが表出されている。最初のふたつは設楽、最後は伊藤の視点であり、ふたりの孤独は映像をでもって通底する。ここでは子供も大人もないのだ。心撃たれる。

昔の職場で小学校に啓発絵画を募集すると、可愛らしい画に混じって一枚や二枚はグロい前衛作品が返ってきて戸惑わされたものだった。半世紀前には新しい視点だったに違いないが本作、煩く心理分析などしないのがよい。教育も戦後十年、がらりと変わったのだったが、これが正しいと主張などしていない。ただ世の中が変化したのだ。

小学生で家出経験のある私には忘れ難い映画なのだが、経験のない人にも追体験を強いる酷薄があると思う。二十代前半にテレビで観て引き込まれ、昔の邦画好きにさせられた作品。こういう作品は青年期には恥ずかしく疎ましいものだが、なぜか気に入ったのだった。壮年になって改めて観て、やはり傑作なので嬉しくなった。

(評価:★5)

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