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[コメント] 誰も知らない(2004/日)

1作毎に進化(大衆に迎合?)する是枝監督を確認する。だが、そのカメラとマイクは相変わらず冷静で冷酷だ。
sawa:38

是枝監督が持つコノ「手法と感覚」は、過去の作品において観客を第三者的な位置に置き、役者に感情移入させる事を拒んできた。

あくまでもドキュメンタリータッチの作風で、私はそう、ひんやりとした森の中で置き去りにされたような孤独感と、それでいてマイナスイオンを全身に浴びている心地よさを感じていた。本作もそういった是枝感覚は随所に表され、ファンとしては存分にその雰囲気を味わえた。

しかし、過去の作品ではそのドキュメンタリー的な手法や、映像・自然音といった技術面が先行してしまい、ストーリー展開という映画的面白さは二の次にされた感もあった。

そして本作。過去作品の「感覚」は残しながらも、主役少年に感情移入させられるような一般作並みの作風はマイルド感を感じた。これは是枝監督としては退化なのか進化なのか?

私はこれを絶対的な進化だと思いたい。何気ないシーンの役者の背景に写る町並みや、時折挿入される無機質な背景そして小道具の数々。つまり役者の演技を必要としない被写体こそ監督の感性そのものである。それらがこれほど見事に役者たちの演技を引き立たせ、そのうえで監督の感性をも写し込んでいる。さらにストーリー展開の面白さも本作では加わった。

彼の持つ「匂い」と一般的な映画の面白さが結合した結果が本作ではなかろうか。

何か誉めすぎのような感じもするが、過去の作品で私が「不足」していたと感じていた部分を埋め尽くしてきたような今回の「回答」。誉め過ぎでもいいんです。だって、彼ほど、独自の「匂い」を持ち続ける監督って他に今の邦画界にいるでしょうか?

最後に、若い役者たちの芝居が話題の中心になっていますが、私は長女役の北浦愛こそ絶品だったと思います。出来うる事ならば、長男以上に複雑な彼女の内面を撮る時間があっても良かったんではないでしょうか?彼女を撮ることで、女・母・扶養というパラドックスにより踏み込めたはずなのですから・・・

(評価:★5)

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