[コメント] 誰も知らない(2004/日)
この生々しいリアルな触感
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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冒頭のにこやかな母子の語らい、内容と表現の余りの酷薄な乖離に唖然とさせられ、凍りつくような世界に目が離せなくなる。子供目線のリアリズムは人の良識に訴える。「あんたのお父さんが一番勝手でしょ」とは物凄いフレーズ。
しかし本作が優れているのは、良識では捉えきれない世界にまで触手を伸ばしていることで、そこには奇妙な充実感がある。まるで高円寺の一角がインドのスラム街になったかのようで、彼等は故郷の山の代わりに羽田の飛行場を目指すのだった。
本作は『禁じられた遊び』に似ている。ブリジット・フォッセーは醜悪な大人のなかで奇妙に妖艶になり、埋葬の儀式に没入する。これを大人の管理下を離れた子供の悲劇、とは私は取らない。社会の束縛を離れたとき、子供であろうが老人であろうが、人はこのような傾向に至るところがある。この手触りがあの名画の肝であると思う。明君は羽田で、この触れてはならないものに触れている。この生々しいリアルな触感、「死」がいつの間にか隣り合わせにいるような触感が、凡百の家庭悲劇物から本作を屹立させている。
是枝監督はしかし、『禁じられた遊び』を公式見解でもって解釈する方向に向かい、この後パパ・ママ・ボクの変奏曲を奏で続けることになる。私などはこれをとても残念に思う。本作には別の可能性があったのだから。
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