[コメント] ゴジラ(1954/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
あの曲は「ゴジラのテーマ」ではない。
音楽担当の伊福部明が考えていた「ゴジラのテーマ」とは、品川駅や都心を蹂躙するシーンで流れていた「♪だーん、だんだんだーん……」という曲の方なのである。それが証拠に後のゴジラシリーズでは、伊福部氏はこちらの方をモチーフとしている(『キングコング対ゴジラ』や『モスラ対ゴジラ』がそうだ)。
では、あの「♪だだだん、だだだん……」は本来何のテーマなのかというと、実はゴジラに立ち向かう人類側の曲なのだ。実際、映画では自衛隊や消防隊が出動するシーンで用いられている。つまりイメージとしては「『怪獣大戦争』マーチ」や「『宇宙大戦争』マーチ」等々の持つものとほぼ同じ、といっていい。ちなみにこの2つのマーチ楽曲の原点は、『ゴジラ』のフリゲート艦出航時のマーチ曲だったりする。
とはいえ、伊福部氏の意図しないことが起きたのも無理はないと思う。オープニングで、ゴジラの泣き声&足音付きで、あの「♪だだだん、だだだん……」が流れるのだ。インパクトは十分過ぎるほどあっただろう。結局、伊福部氏は21年後『メカゴジラの逆襲』でこのテーマ曲を「ゴジラのテーマ」として始めて使用している。なお現在では、両方の楽曲をミックスアレンジしたものが「ゴジラのテーマ」となっている(『ゴジラvsキングギドラ』他平成ゴジラシリーズでは幾度となく使用)。
ナンダカンダ書いたが、やはり名曲であることに変わりはない。
<追加レビュー&細部修正:2002年8月4日>
……さて、今まで投票して下さった方々には申し訳ないが、ゴジラ本編の方についていろいろと追記させて頂きます。
この映画はどうしようもなく重い。何がどうしようもないかというと「悲劇が悲劇を呼ぶ」という止めることの出来ない展開と、それを産み出した現況に対する怒りに満ちている。
まず水爆実験によって古代生物が「ゴジラ」と呼ばれる怪獣と化したことが悲劇だ。水爆実験さえ無ければ、ゴジラは普通の生物のままでいたはずである。そして理不尽なことに、ゴジラの怒りの矛先は、それとは全く関係の無い者達へと降り注ぐのだ。
栄光丸と備後丸、大戸島の漁船の乗組員。劇中では新聞記事でちらりと登場するくらいだが、何十隻もの船がゴジラの犠牲になっている。唯一の生存者・大戸島の政治は、ある晩母親共々、嵐とともに上陸したゴジラの犠牲になった。その光景を、外の音が気になって飛び出ていた新吉少年は、目の前で見ていたはずである。ゴジラが本土に上陸してからはさらに悲劇の度が増す。列車は潰される。人は焼き殺される。「もうすぐ、お父ちゃんのそばに行くのよ……」「右手を塔にかけました!物凄い力です!いよいよ最後、さようなら皆さん、さようなら!」……再度、東京は火の海となり、廃墟と化すのだ。
この間、為政者たちは一体何をしていたのか? 防衛隊や警察、消防が動いているのは本編を観れば分かるが、ほとんど描かれていないことに気付く。国政が本編で登場するのは、ゴジラを公表するか否かで大もめしていたシーンくらいだ。それを冷ややかな目で見る堺左千夫。「毎度毎度くだらねえなあ」などと思っているのだろうか。
現実に、為政者同士の争いは見ていて余りにもくだらない。この映画が公開された10年前、その為政者達がしていたことを考えると本当にくだらなくはないだろうか?(今などもっとくだらないが)そんな為政者たちが動かす「国」と「国」同士の「争い」のために、全く関係の無い人間達も犠牲となる。そして「争い」のために原爆が産み出され、次いで水爆も産み出された。水爆があったがために、戦争があったがためにゴジラは産まれ、それによってまた悲劇が産まれる。為政者達の争いが飛び火し、結果焦土と化した東京。それに対するどうしようもない怒りは、新吉少年の「ちくしょう……」と、ゴジラに攻撃する戦闘機に向け声を荒げて「やっちまえーっ!」と叫ぶ避難民たちの声に凝縮されている。
そのゴジラを倒すために用いられたオキシジェン・デストロイヤー。開発者としては、余りにも不本意な形での、最初で最後の公表となってしまった。研究途中に産まれた偶然の産物が、為政者たちに使われるのを恐れていた開発者・芹沢。彼は自らの死と共に研究を全て灰にした。悲劇に巻き込まれた芹沢は、悲劇によって生まれたゴジラと共に海に没した。「……尾形、幸福に暮らせよ……さようなら……」
この悲劇を止めてくれ、悲劇は自分が最後であってくれ、そして平和に暮らしてくれ……というように聞こえるのは自分だけだろうか。伊福部昭氏による「平和への祈り」が流れ、ようやく映画は終わりを迎えるが……。
……ゴジラには、二匹目がいたのだ。もっとも、どのゴジラが本当の二匹目なのかは分からないが、これの続きは『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』で書こうと思う。
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