[コメント] ドラゴン危機一発(1971/香港)
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円形ノコギリによる死体切断。ナイフによる攻撃。血糊の使用量の多い作風であり、氷漬けの死体のシーンなど含め、幾らかグロ志向。ブルース・リー自身も格闘シーンで敵方のナイフを奪い、斬りつけたり投げ刺したりする分、自らの四肢そのものを凶器とする肉体の絶対性が徹底されていない寂しさがある。
全体的にチープな作風ではあるのだが、チェン(ブルース・リー)が世話になった一家が、少年までもナイフを突き立てられて絶命している皆殺しシーンなど、残酷さには手加減が無い。それ自体が見世物的なチープさの表れだと見ることも出来るかもしれないが。この惨殺シーンに遭遇するのに先立ち、ボスの息子(トニー・リュウ)の命を拳で奪ったチェンは、苦悩と悔悟の漂う面持ちで、血塗れの白いシャツを脱ぐ。上着をまとって歩き始めたチェンは、だが、床に流れる血に足を滑らせる。悪党に対抗する為に心ならずもその身に血を浴びたチェンは、更に恩人たちの血に塗れることになる。この辺りはきっちりと演出が利いている。
川辺で復讐を誓ったチェンが、荷物の包みを川へ投げ捨てるアクション。ボス(ハン・インチェ)の館へ向かうチェンが、何やらチップ菓子を口にしていること。立ちはだかるチンピラ二人を連続キックで倒した後、パリッと菓子を食う仕種。待ち構えるボスが、片手に鳥籠をのせてポーズを決めている姿。ボスがヒョイッと樹の枝に投げて掛けた鳥籠にチェンがナイフを投げて落とし、鳥を解放すること。こうした、バカバカしいともとれる芝居が妙にクールに決まって見えるのも、リーの特権的な身体性が、そうした虚構を支えられるだけの強度を持っているからに他ならない。
ボスとの決闘シーンでは、館の傍の道路を普通に車が走っていく。バスも通っていたので、乗客の中にはリーらの姿を目にとめて「何やってんだ?」と思った人もいたかもしれない。そうした、全く無関係な世界が視界の隅を横切るという、奇妙な距離感の中での真剣勝負。
遂にボスを倒したチェンが、死んだボスの顔面をなおも何度も叩きのめす狂気。二人の決闘のドサクサに紛れて逃げたチャオ(マリア・イー)が呼んだ警官らにチェンが捕われるラストは、結局シュウ(ジェームズ・ティエン)らの行方不明については役立たずだった警察の手にチェンの身柄が確保されるという、何とも苦い結末。保護者たる警察にさえ頼れない状況下で自らの肉体だけを頼りに闘ったチェンが、肉体唯一つという条件であるが故の限界に直面させられるということ。この諦念は後のリー作品にも継承されることになる。
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