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[コメント] ハウルの動く城(2004/日)

まさに『千と千尋の神隠し』を作った人の映画だ。『もののけ姫』までの宮崎駿を求めている私は…。
4分33秒

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







※『千と千尋の神隠し』のネタバレもありますのでご注意ください。

※一回しか観ていないので、間違った理解をしている可能性が非常に高いですが、お許しを。

序盤から中盤にかけて、ハウルとソフィーがサリマンから逃げおおせるあたりまでは、非常に丁寧な描き方をしており、本当にとても楽しかった。特筆すべきは、ソフィーとハウルの出会いと逃走のシーンで、ちょっと『カリオストロ』や『ラピュタ』あたりを彷彿とさせるような素晴らしい出来。「おおっ、あの頃の、純粋なエンターテインメントで魅了する宮崎駿復活なのか!?」と心躍った。彼の映像で、脳みそを空っぽにしてワクワクできたのは久し振りのような気がする。宮崎アニメの特色としてよく引き合いに出されるのが「空を飛ぶシーンのすばらしさ」だが、今度はとうとう空中を「歩いて」みせた!そうか、まだその手があったか!と心の中で手をポン!と叩いてしまった。

ここらへんまでは、「初日に観に来た甲斐があったかも…!」と素直に喜ぶ自分。

しかし、後半がいけない。それまでの話のペースから、急に早送りでもしたかのように、描き方が雑になってくるのである。詰め込みすぎだし、説明不足。付いていけなくなるのだ。…これは『千と千尋』にも見られた傾向である。説明不足と思われるのは、具体的には、以下の点。

・ハウルの描き方。魔女を死ぬほど怖がり、自らの美を失うことで「溶ける」ほど頼りないハウルが、 一方では何かに憑かれたように戦場に赴き、敵の魔法使いが放った無数の魔法兵器たちと、勇猛果敢に激しい戦いを繰り広げる…。何か矛盾してるような…。よく分からないのですが。(細かいところ気にしすぎですかね?)「とっても弱い」のか「とっても強い」のか、はっきりせい、という感じ。パンフレットには「そういう、色々な要素がごちゃまぜになってるのが男なんだ」みたいな養老孟司のコメントがあるが…。そうかなあ…。ワカリマセン。

・荒地の魔女がサリマンに「浄化」されてからの様子や発言、行動が「?」。それまでの「荒地の魔女」としての意識や矜持はどうしたんだい?それさえも、悪魔に操られていただけで、本来の自分ではなかったと?それとも、老婆というのは「そういうものはもうどうでもよくなるんだ」とでもいうのか。うーん…。難しすぎる…。「ハイそうですか」と理解することができない…。これは『千と千尋』でのカオナシが苦ダンゴを食わされた後の様子と同じ。つまり、カオナシも荒地の魔女も元は「普通の人」「純粋な人」で、前者は「欲望」に、後者は「契約した悪魔とその魔力」に毒され、支配されていた状態。前者は千尋による「苦ダンゴ」、後者はサリマンによる「浄化」を経て、全ての欲望を吐き出し、本来の姿に戻った、ということらしいのだが、両者ともまるで「ロボトミー手術を受けた人」みたいに大変貌を遂げるので、ついていけなくなってしまうのだ。最後の方のエピソード、カルシファーが契約によって預かっていた(?このへんもよく分からん)ハウルの心臓を、本来の魔女の嗜好を思い出した荒地の魔女が欲しがったりするくだりも「あれ?もうそういう邪悪な気持ちはなくなったんとちゃうん?」みたいなモヤッっと感が邪魔をする。(今考えると、魔女にとっては心臓は単に好物だ、ということなのだろうが…)

・ソフィーのお母さんの行動と意識が分からん。老婆になったソフィーに会い、罠を仕掛けていったときの「ごめんねぇ〜、ソフィ〜」。国側に脅されてやった割には、実は全然気にしてません、って態度。どういうこと?実の娘じゃないと?(容姿が似てないから継母?妹のレティーとは似てるから、レティーは連れ子か何かってこと?…その割にはレティーはお姉ちゃん想いのいい娘だったような…。)分からん…。原作がそうなの?原作未読でもちゃんと分かるようにして欲しい…。

・カルシファーと少年時代のハウルの契約?のシーン。カルシファーは「悪魔」なのに、まるで  「流れ星」のように描かれるのはナゼ?(原作を読めって?)あまりに美しく、「悪魔」というよりは「天使」のイメージだ。邪悪なものとはとても思えないので、何かキョトンとしてしまう…。王宮に来た荒地の魔女をサリマンが襲った時に、荒地の魔女を取り囲んだのも、この「流れ星」を頭に持つ、人の形をしたモノ。これはサリマンが操る「悪魔」、ということなのか。分からん。

・サリマンの行動が分からん。ハウルとソフィーがハッピーエンドになると、どうして国王に停戦を申し出る決心をするのか?キョトーン、でした。幸せそうな二人にアテられたってこと?んな理由で戦争をやめたりやめなかったりするなー!戦争をやめる、なんていう国政でも最重要に位置する決定に関して国王に干渉できるほどの権力を持ってるなら、さっさとやめさせたらんかーい!

不明点は、だいたい以上。で、今回一番引っかかったこと。

千と千尋』で一部から大不評を買った(この私もそれが非常に不愉快に思えた)、「あまりに不自然な超大粒の涙」ふたたび!…今回はさらにエスカレートして「滝のような涙」!総量で3リットルは出ている…。宮崎駿には申し訳ないのだが、これを見たとき、映画の世界から、一気に現実に引き戻され、冷めてしまいました。一部の人には「まさに逆効果」です、この演出。

この映画はもちろんアニメであり、アニメ的な誇張表現というのは随所に散りばめられてはいる。このシーンだけに目くじらを立てるのはおかしい、と言われるかも知れないが、…ダメなのだ。この演出は、どうしても、どうしても受け付けない。このシーンが、それまでストーリーに、映像に没頭できていた自分に、取り返しのつかない深い傷を負わせるのだ。『千と千尋』でも、私はオニギリ頬張りシーンでこの涙を見て、一気に冷めた。これらのシーンでの涙が普通の描き方だったなら、私はどんなに感動できただろうか!(感動したかった…!)私は、この超大粒の涙によって、自分が本来(ってのもおかしいが)このシーンを見て流すことができたはずの涙を、無理やりせき止められてしまったのだ。

というわけで、やっぱり素直に楽しむことができなかった。最近の宮崎駿の映画は分からん!3点。やっぱり細田守版が観たかったよー。彼なら素晴らしいエンタテインメントに仕上げてくれただろうに…。(2004.11.20 群馬県のMOVIX伊勢崎で鑑賞。)

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…以下、声優の話。(最近のアニメ映画は、ジブリ作品に限らず主役にプロの声優を使いたがらないので、どうしてもここに話が行ってしまう。もっとプロの声優を優遇しろー!)

一番心配していた木村拓哉は、実はいい方に裏切られた。ハウルの容姿にピッタリな声だ!カッコいい!30代後半に差しかかかった(しかもロリ傾向なw)このオレが「…オレもソフィーの気持ちが分かっちゃうかも…Vv」と思わせるくらいの説得力。…もちろん演技はそれなりといえばそれなりなのだが、問題はそれほど大きくはない。

ソフィーの倍賞千恵子は、老婆になってからは「ウマイ!」という場面が多かったが、十代の声はやはりややきつかったといえよう。冒頭の十代での登場シーンを観て、「ああ、やっぱりちょっと無理があるな…素直に老婆と十代で別の声優をアテればいいのに…」と思ったが、映画が進むに連れ、それが不可能であることが分かった。ソフィーは頻繁に10代から老婆までの間を行ったり来たりするからだ。30代に見えるとき、50代に見えるときもある。…これらを違う声優がアテたら、違和感があるかも…というリスクがある。それぞれの年代に最適な声優をあてがうというのも私は否定しないが、最近のジブリが主役にプロの声優を使うはずがないので、声の素人連中を何人も用意したら、それこそチグハグのバラバラになってしまうだろう。だから「一人で全部カバー」になったのではないか。そういう製作側の前提を甘んじて受け入れるならば、良い人選だったと言えるだろう。(…でも、プロの声優には、もっとウマイ人がごまんといると思うけどね…。w)

ちなみに、ソフィーの変貌は、ハウルに恋心を抱いているときは若返り、ハウルを嫌いになっているときは老け込む、という設定だと思って見ていた。(あと、眠っているときは若い容姿に戻る。)多分間違いないと思うのだが、気づかない人もいるようだ。 (絵の力だけで説明するには無理がある。それを観ている人にちゃんと分からせるのが演出だと思うのだが、最近の宮崎駿作品は、その辺が非常に雑、というより、逆に演出として宮崎駿が好んでそうやっているっぽいところがいただけない。)

荒地の魔女、カルシファー、マルクル、サリマンの声はいずれももうドンピシャで、文句なし。(ここに挙げた4人は全て宮崎駿監督作品での声の出演経験あり。)特に美輪明宏の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。『もののけ姫』でのモロの君も実に素晴らしかったが、ハウルではさらにこの人の芸の奥深さを知ることになった。また、マルクルの声をやった神木隆之介の声は実にカワイイ。(このコ、本人も実にカワイイが…。本当に男の子?)

※余談

5歳の娘を連れて公開初日に鑑賞。…7歳の長男も誘ったが、仲のいい友達と一緒に、近所の児童館で上映される『名探偵コナン』を観に行くという。とうとう親離れが始まったかな…w。というか、このことは、この映画の宣伝内容と映画の傾向を、ある意味如実に表しているかも知れない。もののけ姫や千と千尋のときほどCMを流していない気がするし、そのCMもそれほど煽らない。この映画がいったいどういう内容なのか、どんな年代を対象に作られているのかが、分かりにくいのだ。おばあさんが主役?…子供にとっては、かなり微妙である。だから、ウチの長男は特に「観たい」と思わなかったようである。

…映画館に来ていた年代層を見ても、20歳以上の人が多く、小学生から高校生くらいの客はほとんどいなかったように思う。…わざわざ公開初日に観に来るような連中から全体の客層を判断するのは危険かも知れないが…。

愛の告白シーンあり、キスシーンありで、ティーンエイジャーというよりは20歳前後の若いカップル向け、といったところなのか。家庭の切り盛り、老人介護まで見せてくれるし、将来の主婦を養成する映画?(^^;

…でも封切り二日間の興行収入記録を、また塗り替えたみたいね。あ、そう…。

(評価:★3)

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