[コメント] ふたりにクギづけ(2003/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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もう、ファレリー兄弟最高! 劇場で2回鑑賞。 もう一回行きたかったけど渋谷は終わっちゃった。 とにかく、あっぱれでした。
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冒頭のハンバーガーショップ。何人分ものハンバーガーをスピーディな連携で作り出すウォルトとボブ。2人はウェイターのロケットに対して差別発言をした客を追い出す・・・。このハンバーガーでファレリー兄弟風味が十分に堪能できる。しかし、そこで終わらないのがファレリー兄弟。
活発なウォルトとアガリ症のボブの描写は笑いと涙を誘う。印象的なのは初見時、大真面目にロビンフット役のオーディションを受けるウォルトと隣で緊張するボブに大笑いしてしまった私は、続いて劇中のオーディション責任者も大笑いしたことで、この笑いは差別的な意味を持ちかねない、とハッと気がついたこと。ファレリー兄弟は2人の描写を通じて、ユーモアと偏見という笑いのもつ似て非なる2つの本質をついていたように思う。
2人が分かれるには手術が必要。ウォルトが助かるのは50−50。手術に反対するのはウォルトではなくボブだった。手術後、バーガーショップでスランプ状態のボブと、「本を読む人」像にもたれかかるウォルト。そして、「何をするか悩んだら、自分が一番やりたいことをやりなさい。」とのシェールのアドバイス。 ラスト、劇場に向かう2人は「マジック」テープで繋がっていた。そしてミュージカル。まさに「マジック」のようなエンディング。もう最高。
あと、スポーツの無茶な設定もたまらなかった。2人組キーパーのアイスホッケー、4本の手で乱打するボクシング、左右の手で打者とランナーを撹乱する野球など、全くありえない設定ながらも笑える。一人でプレーせざるを得ないゴルフでもキャディのマット・デイモンがグレッグ・キニアのスィングを際どく避けてるのも芸が細かい。
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さてグレッグ・キニアについて・・・。 今まで彼が演じてきた役柄は、内向的な役柄が多かった。なかでもオスカーにノミネートされた『恋愛小説家』での不慮に落ちぶれてしまったゲイのアーチストの演技は素晴らしかったし(この作品来、グレッグにゲイっぽいイメージが付きまとっていたが本作で払拭)、『ベティ・サイズモア』ではこれまた微妙なTVスター、『ギフト』でも最後まで善悪つきかねる微妙な設定であった。そう、心の内面を滲ませるキニアの視線は一級品。
ところが、本作のパンフレット見て知ったのですが、もともとグレッグ・キニアはTVショーのコメディアン出身だったんですね。つまり、本作のような女好きで底抜けに明るい役柄はお手の物だったわけです。その演技の幅の広さに驚きを隠せません。そしてラスト、メリル・ストリープとのミュージカル。グレッグの歌唱力。最高です。
また、アガリ症のマット・デイモンも最高でしたね。デイモンについては、彼がメジャーな役者であるという以上に特に意識してこなかった私としては本作が彼の代表作となりました。ボブの醸し出す雰囲気、例えば、TVショーの端っこに写り込むボブ。 それを見たハンバーガーショップの常連客が大笑いしているのに対し、店員のおばさんは「元気そう」と安堵する様といい、とってもいい味出してます。
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ファレリー兄弟の映画創りのテーマに「障害」や「コンプレックス」が含まれていることはもはや疑う余地はない。基本的に常に「2人の仲」が描かれていることに今更ながら注目したい。特に本作は10年の構想を経ただけあって2人の集大成との感もある。
結合双生児という題材と"Stuck on me!"という原題を考えると、"I am stucked!"という映画でもよく聞かれる台詞が、一般にぬかるみ等に嵌った状態など物理的にある状態から逃れにくい状況や、時として精神的に現状から逃れられない状態をも意味するように、文字通り2人は心身ともに切っても切れない仲だったということでしょう。
邦題の「ふたりにクギつけ」と、原題の"Stuck on me!"のフレーズからもう少し踏み込んで考えてみると、邦題・原題ともに我々観客を含めた劇中の人間がウォルトとボブの魅力に引き込まれる様子をも意味しているように思う。 この場合、"Stuck on us!"となるはずでは?と疑問が沸きそうなものであるが、同監督でジム・キャリー主演の二重人格者を描いた『ふたりの男とひとりの女』の原題"Me, Myself & Irene"の例にもあるように、特定の仲にあってはファレリー兄弟にとって"me"も"us"も、ふたりもひとりも同義なんだろうと思えてしまう。ファレリー監督作品の邦題は洒落ているのが多いですね。
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余談ながら、キーパーソンのメリル・ストリープはなんとノークレジット。他にもルーク・ウィルソン、ウィル・スミスはじめ多くの映画スターの協力や、スポーツ界のスターの協力を得ている。本作はタブーに挑戦し続ける2人独自のスタンスが、ようやくほぼ完全にハリウッドの映画界で認められたことも示しているのだろう。
また、いつもエンドロールで笑いのネタを仕込むファレリー兄弟が本作ではロケットの感動的なスピーチを持ってきたことからも判るように、いよいよ兄弟の映画創りのテーマが核心に近づいてきたことを意味するのだろう。ちなみにロケットは『ふたりの男とひとりの女』でもエンドロールに写真で登場しています(出演箇所がカットされてしまったため)。
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