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[コメント] シチリア!(1998/仏=伊)

原作は1936年の出来事を扱う。同年に勃発したイスパニア内戦で、マフィア主体のファッショ党は農民や労働者を殺戮し、原作者ヴィットリーニは離党して反ファシズムに転向している。映画は例によってこの背景を省略しているが、知って観るべき背景と思う。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







上記は細川晋さんの解説による。

港、列車内、母との再会、研屋の4パートから成る。港では地元労働者と戯れに会話。彼はオレンジは売れず給料は現物支給とボヤく。主人公がアメリカ帰りと云うのは、原作ではこれはその場の云い逃れらしい(渋谷哲也氏の講演による。実際はイタリア放浪からの帰省)。列車内もシチリアの噂噺。「喰いつめものは危険だ、何でもやらかす」「どこでも憲兵はシチリア人だ」憲兵は薄給の仕事ということなのだろう。シラケーサ、海際の駅、不思議な無音状態、山には鳥が鳴く。

母親を新居に尋ねる件が長尺で。母はニシンがあるよと焼く。冬はニシン、夏はピーマン。貧しい食事の回想。踏切の番小屋住まい、貧乏人の食事はカタツムリ、殻から吸い出した。叔父さんは信仰のある社会主義者で祭りの行列も仕切った。パパは駆落ちした。お産でも泣くだけだった。家に曲馬団の女連れ込んで浮気したから追い出した。母も浮気したと語る。硫黄鉱山の工夫。渋谷氏によれば原作では主人公は心の中で「メス牛め」と母をののしるのだが映画は削除。これは倫理的なものだろうと語っておられた。この母親がもう一度見たくて映画館に来た、とディスカッションで述べている客がいた。いい女優さんだった。出演は地元の素人劇団員の由。モノクロは陰影深く老人の表情を捉えている。

ラストは滑稽で、石段に髭面の研屋がいる。「ナイフもハサミも見たことがない、剣か大砲を研ぐ」主人公がナイフを出すと自転車漕いで、仕掛けで回る円盤にナイフかざして研ぐ。ハサミ研ぎとはこうするのだと目からうろこだった。単位は忘れたが主人公が8渡すと三等分できないと唄う。2返してこれならパン2、ワイン2、税金2だと喜びその場でクルリと一回転、主人公と滑稽な対話を交わす。最後は母音だけ連呼するらしい。細川晋さんの解説によれば、「社会主義の実現を願う研ぎ師」とある。母親との深刻な対話のあと、このコメディで映画を終える組合せは画期的で、普通のプログラムピクチャーなら誰もが簡単に失敗作の烙印を押すところだろう。何でもありを可能にした作家だと思わされた。

(評価:★4)

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