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[コメント] 永遠の片想い(2002/韓国)

イ・ウンジュ。彼女こそは別格の天才だった。本当に。
ぐるぐる

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







韓国映画の恋愛ものは、まるで1970年前後の大甘な少女マンガを思わせるようなプロットが多いが、このイ・ハン監督自身の脚本の設定もその典型。そういう前提さえ受け入れられれば、あとはよく書けている言ってもいいと思う。

演出はスローに終始し過ぎてちょっとクサイと感じるところもあるが、たしかに美しいシーンも多い。3人の主役のなかで、チャ・テヒョンソン・イェジンに関してはキャスティングも良いし、実際好演であることに間違いはない。

が、しかし、ここでのイ・ウンジュの存在感は、そういった要素が束になってかかってもまるで手の届かない異次元の世界だ。その可愛らしさ繊細さいじらしさ自然さ・・・ 結局はもう、この映画を見ての感想と言われれば、彼女への賛辞以外は何も言いたくなくなってしまう。だもんで、以下チラシの裏デス。

なんと言うのか、この映画は今後30年間、DVDが他のフォーマットに変わろうがTV放送が完全デジタル化されようが、その時々のいろいろなメディアで繰り返し繰り返し流通し続け、毎年新しい若いファンがそれを見てはイ・ウンジュの世界に惹き込まれ、彼女を想って涙を流すことになるに違いない。かつてのオードリー・ヘップバーンジェームス・ディーンのフイルムのように。そう思わせるだけのオーラが、ここには確かにある。決して古びることなく、いつでもいつまでも人を惹きつける、何度見ても見るたびに新鮮な魅力。あれはいったいどこから生まれるのだろう?

イ・ウンジュの場合、容姿がどうとか演技がどうとかいうレベルじゃない。技術ではなく、肉体性ではなく、心の演技とかでもなく、まるで魂そのもの。そこには、もう一目見て「紅天女は彼女しかいない!」みたいな直感的な浸透力がある。たとえばずっと見ていたいと思わせる子供のような純真な遊び姿が、あっというまに無条件の包容力を持つ聖母のような佇まいに変化する魔法の瞬間。たとえば貧乏ゆすりひとつで、まるでモーツァルトの序曲のように見るものの胸を恋の予感で昂ぶらせる抜群の身体表現。一体、映画史上、他の誰がここまでの表現をなし得ただろう?

だからもう、この映画は★1個にする。平均点を下げさせてもらう(無理?)。だって、この点数が評価ではなくオススメ度なのだとしたら、この映画をヒトになんかオススメしない。ヒトと一緒になんか絶対に見たくない。自分だけで見る。DVDを買ってひとりで夜中に繰り返し見る。そう、100万人を相手にしていても、自分ひとりに語りかけてくるような親密さを生み出せるのが、イ・ウンジュの天才の証だ。彼女が自分の恋人であるという錯覚にとらわれた(らしい)かつての韓国のヒーロー=チョン・イングォンの気持ちも判らないでもない!?

だから、許す。イ・ウンジュの放つ妖しい魅力にあっては、村の郵便配達が彼女の留守に部屋に勝手に上がりこんで、投函するつもりもなくベッドの下に隠した箱の中の手紙を見つけてこっそり持ち出し、ちゃんと宛先に配達しても、許す。彼女の生み出すオーラには、そういう無意識のうちに人の行動を支配する、ある種の超常現象を起こす力があるに違いないからだ。

もちろん、許す。子供のころから病弱で長い入院生活を余儀なくされ、親からは旅行にも行かせてもらえないほどだったのに、体を乾かす当てもないところで服のまま海に入ったり山でいつまでも雨に打たれたりしても、許す。異次元の世界へ突入するには、水のイニシエーションがどうしても必要だったんだ、きっと。

あれ? その右手の包帯、どうしたんだっけ? と何気なく思わせておいて、最後にはそれが永遠の喪失への空しい抵抗の痕だったと知らされる観客の立場ってどうなのよ? ここで泣けというのか。号泣しろと命令されているのか。だってだって、それじゃあ、あの時あの居酒屋で、何ということを言ってしまったんだ、オレは!(オレじゃないって) もう許せない。オレは絶対にオレを許せない〜っ!(ってオレじゃないけど)

劇中で主人公たちが見る映画(『イル・ポスティーノ』)の、「この痛みを忘れずにいたい」というロマンに憧れた3人は、実はあの映画の撮影終了直後にこの世を去ったというマッシモ・トロイージの魂に惹かれていたのだ。どういう演出しとるんじゃ、この監督は。そんなに人を泣かせたいのか。泣かせればいいのか。ええい、腹の立つ。

そうして劇中のジファンが経験することになる「永遠の片想い」を、僕らは2005年2月22日以降、ずっと共有する羽目に陥るのだ。何ということだろう。これはどういう偶然なのか? 本当に偶然なんだろうか? もしかすると、この映画を完成させるために、原稿用紙の外にまで書き続けられた見えないシナリオがあったのだろうか? (つづく)

(評価:★1)

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