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[コメント] ブルーベルベット(1986/米)

「穴」を伝って光と闇を行ったり来たり。行き来するごとに、日常だと思っていた光が闇に満ちたものに見え、非日常と思っていた闇が妖しい魅力を持って輝き出す。プロットも劇伴も撮影も、この「逆転現象」に傾注した結果、リンチの伝家の宝刀「暗黒の光」と「輝ける闇」が現出する。そして、それは「穴」を経由して旅する者でなければ見えない真の世界。決して「異常」ではない地続きであるという詠嘆と真摯。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







昼なのに何だかすごく暗い気がする。何だか陽光が禍々しい、怖い・・・

夜なのに何だかすごく明るい気がする。怖いけど何だか逃げられない・・・

マルホランド・ドライブ』、『インランド・エンパイア』で頂点を極める「暗黒の光」と「輝ける闇」。原型がここにある。どちらかと言うと闇の魅力が語られがちと思うが、私はリンチの、何より「昼の光」がものすごく怖い。リンチはレンズを通して、必ず光に沈殿する闇を見ている。明るいのに闇がよどみ、濁っている。光と闇は不可分である。遺憾ながら、これこそが「境界」を超える者が持ちうる「真摯な目」である。

闇が隠されている、という状況に被さるアメリカの「善意に溢れた」レトロテイストが生きている。更に、この「まともらしさ、健全さ」がまともに見えなくなってくる、という一つのテーマを体現する顔面の選択センスが、リンチは図抜けている。マクラクランのミョーに整ったキレイな顔。また、どう思っていいか分からなくなるローラ・ダーンの「泣き顔」(本当にリンチのミューズなんだろうか。私は結構好みなんだけど。基本的にダーンの使い方は意地が悪い)これらを締める、光と闇の境界線上でこそ形成されるようなロッセリーニの深みのある美貌。素晴らしい配置。

しかし、ラストの救済されたロッセリーニを包む「真の光」(ブラボー、バダラメンティ!)が、わりかしセンチなリンチの心情をまっすぐに露呈していて(この人はいつもセンチな人だと思っています)、やっぱり闇なしに光は理解し得ない、とか、ナウシカみたいに呟きたくなる。光も闇も直視して提示されるラストは、とっても真摯で感動的だと思います。それでもやっぱし不気味ですが・・・

こう言ったら何ですが、すごくいい映画です。きちんと計算して作られていると思う。必ずしも狂ってればリンチ、ってわけでもない。あんまり「変態映画」「変態監督」ってくくりにするとリンチが泣くと思います、ええ。

しかし繰り返しになりますが、『マルホランド・ドライブ』、『インランド・エンパイア』の陽光はほんとうに怖いです。ちびりそうになります。マジで。

(評価:★4)

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