[コメント] Ray レイ(2004/米)
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手放しで誉めようとは思っていなかったが、それでも手放しで誉めよう。そのぐらい感動してしまった。
中盤まではこれほど大きな感動を味わうとは到底予測できなかった。金に関して強い執着心を持ち、クスリと縁を切ろうという意志すらなく、家族を愛してると口では言いつつツアー先では愛人とベッドを共にするレイの姿はとても共感を呼べるものではないからだ。たとえ、幼少時代に貧困で苦しみ、弟が溺死したトラウマを背負い、わずか7歳で失明したとしても、そこに同情の余地はない。
しかし、話が進むに従って、気がついた。この映画では偉大なスターであるレイ・チャールズの存在に対し、伝記映画が陥りがちなミスである“美化すること”をしてはいないのだ。有名スターだからといって、人間として完璧であるはずはない。もちろん多くの欠点がある。この映画ではレイの短所をしっかり見つめ、その上で絵巻物的な構成で歴史に名を刻むミュージシャンを描いている。
アトランティックからABCレコードへ移籍した際、売れ線を狙ったという批評家からの批判も交え、有名になるアーティストなら必ず経験するであろう大衆性と独自性のバランスをどう取っていくかの葛藤も描く。ジョージアでの公演の際、隔離席がある会場では演奏しないとレイは差別批判をするが、そのシーンの過程で「別に俺には関係はない」といった表情を見せたところも描く。愛人の女性歌手を妊娠させてしまったことに対する責任がきちんと取れない姿も描く。
細かいところまで悪い点はそれとしてしっかり捉え、それらを束ねることによって、レイへの感情移入が強まってくる。長尺ながらテンポが良く編集されているが、それによってより多くもエピソードを紹介することができ、最終的に終盤で今までの描写をきちんと同じところに集約させた。演出力を疑問視する声も上がるテイラー・ハックフォードだが、彼の手腕は評価に値するはずだ。断じてジェイミー・フォックスの物真似の域を凌駕した演技だけが映画を高めているわけではない。
レイ・チャールズの生活は欠格だらけだったかもしれないが、それらに向き合って描写したことで、逆に音楽が生きてくる。あの状況、あの生活の中でなければ、素晴らしい音楽は生まれ得なかったと思う。レイ自身に絡んだことから生れた曲たちが、劇中でBGMとして使われ、ライブ演奏シーンも頻繁に盛り込まれ、これらがなんと効果的で素晴らしいことか! ドラマパートを音楽がサポートしていき、感動を助長していく。ある意味ではミュージカルのようである。娯楽性にも悲劇性にも富んだ、実に内容が詰め込まれた壮大なミュージカルだ。
ラストシーン、締めくくり方はアカデミー受賞作『ビューティフル・マインド』とよく似ていることもあり目新しさはないエンディングだが、それでも今まで2時間半描かれてきたことに対する思いがどっと溢れ出てくる。流れるのは、中盤でもうまく内容に絡められていたあの名曲「我が心のジョージア」。目頭が熱くならないわけがない。
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