[コメント] トニー滝谷(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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2023年に再鑑賞してコメント全面改訂。
いきなり余談。今回、新しく出来た新宿歌舞伎町タワーの109シネマズプレミアムで鑑賞したんだけど(坂本龍一が映画館の音響監修なので、映画館オープニングと追悼を兼ねた特集上映だった)、この映画館いくらするか知ってる?4,500円!夫婦で9,000円!高けぇよ。映画は気楽な娯楽であれよ!悩んだ挙句「この映画ならそれだけの価値がある」と判断して行ったんだけどね。結果、よかったですよ。劇中、宮沢りえが買い漁る高級ブランド服に相応しいラグジュアリー感ある映画館でした。35mmフィルム上映のフィルム状態も良かったし。『東京リベンジャーズ2』とかも4,500円で上映してたけど(ちなみにSシートは6,500円)、そんな高級感溢れる椅子で観る作品じゃないと思うけど。
閑話休題
村上春樹原作映画で一番いいと思うんです。私は『ドライブ・マイ・カー』納得してないからね。あ、この映画の語りは西島秀俊だ。西島秀俊は村上春樹とダイワマンが似合うんだな。いや、ダイワマンは唐沢寿明の方が似合ったな。そんなことはさておき、ハルキ的な発見としては、『新しい靴を買わなくちゃ』ならぬ「新しい服を買わなくちゃ」という宮沢りえの渇望は「パン屋再襲撃」の空腹と、「彼女の影」と称される衣裳部屋に残された大量の服は「1973年のピンボール」のピンボール台と重なるように思えるのです。ま、これも余談です。
閑話休題に次ぐ閑話休題
これは、ページをめくるように、人生の断片を切り取っていく映画です。とてつもなく文学的な映画。
市川準自身、メッセージを打ち出したりインパクトを与えたりすることではなく、「何気ない拍子にふと思い出すような映画」を目指したようなことを言っていました。正確には覚えていませんが、だいたいそんなところです。今、ふと思い出した。そして映画は見事にその狙い通りになり、偶然か意図的か、それはそのまま「何気ない拍子にふと思い出す」主人公の心情と重なるのです。
実に繊細で、緻密な映画です。でも、室内に風が吹くんですよね。トニー滝谷が描く絵のように緻密に計算された映画でありながら、風で髪が揺れるという不確実な要素が紛れ込む。トニー滝谷の人生に吹き込んだ一陣の風が、宮沢りえなのですよ。
地味だけど素晴らしくよく出来た映画です。ひっそりと路傍に咲く一輪の花のような映画。 珠玉の短編小説のような映画。
(2023.04.23 109シネマズプレミアム新宿にて再鑑賞)
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