[コメント] いとはん物語(1957/日)
京マチ子は扇屋のいとはん。鶴田浩二は使用人だ。鶴田は、いとはんの京からも思われているが、女中の小野道子からも慕われており、小野がもう一人のヒロインと云ってもいい。店の裏手にある二階の物干し台が、菊の花壇になっており、こゝが、見事に恋の装置として機能する。白い包帯がハラりと垂れる、さりげない演出なんて、もう唸ってしまう。
美しい夕景のシーンが随所にある。くだんの物干し台と町の屋根屋根のカット。稲荷神社での鶴田と小野が逡巡する場面。箱根神社の鳥居のシーン。全編で箱根のシーンだけは、素顔の(特殊メイクなしの)京マチ子だが、鶴田と二人で尾根を歩く、シルエットのカットは、奇蹟的な雲のカットでもある。
クライマックスは、全く科白で説明せず、小野の手紙で京に理解させる、というクレバーな演出。その後の京の取り乱しようも、なんて見事な所作の演出だろう。鶴田の退場の潔さも相まって、本当に感極まるエンディング。京とその母、東山千栄子は、ちょっと泣き過ぎとも思ってしまうが、いやあ、伊藤大輔の演出力を見せつけられる。最高。
#備忘で印象深い音楽について記述します。
「庭の千草」:菊花を手入れする鶴田の口笛、京の鼻歌。
「ホームスイートホーム」:箱根のシーンでの、女学生の合唱。
「一番星見つけた」:子供たちの路地での歌声。
いずれも、伊福部昭らしい劇伴がかぶさって、複雑な感情を呼び起こす。歌ではないが、京の妹が英語の本を読む場面では「Twinkle Twinkle little star」。
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